会計検査院は2026年9月28日、耐震補強を実施した全国の緊急輸送道路などの橋梁のうち、161橋で大規模地震に対する基礎部の耐震性能が不足していたと発表しました。検査対象となった496橋(橋脚1,350基)の約8割にあたる407橋で設計や照査に不備が確認されており、橋脚補強時の自重増加が下部工へ与える影響の確認不足が浮き彫りとなっています。
会計検査院の調査結果と基礎部照査漏れの経緯
調査概要と耐震性能不足の内訳
今回の調査は、全国26道府県の69事業主体が2016年度から2024年度にかけて実施した、緊急輸送道路等に架かる橋梁の耐震補強工事(工事契約金額計:約1,178億円)を対象に行われました。
対象となった橋梁では、橋脚の柱部に鉄筋コンクリートなどを巻き立てる「巻き立て工法」が広く採用されていました。しかし、巻き立てによって橋脚自体の重量が増加するにもかかわらず、その荷重を受ける基礎部(フーチングや杭基礎)の耐力照査を適切に実施していなかった事例が多数確認されました。
| 検査区分 | 対象橋梁数 | 対象橋脚数 | 主な不備内容 |
|---|---|---|---|
| 検査対象全体 | 496橋 | 1,350基 | 2016〜2024年度に巻き立て工法を実施した緊急輸送道路橋 |
| 設計・照査に不備があった橋梁 | 407橋 | 1,128基 | 基礎部の耐震性能未確認、照査漏れ、計算ミス等 |
| 耐震性能不足が確認された橋梁 | 161橋 | 359基 | レベル2地震動において要求される耐震性能を満たさない |
| 耐震性能が未確認の橋梁 | 246橋 | – | 完成図面の欠損や地盤データの不足により照査不能 |
| 自重増に伴う照査未実施の橋脚 | 214橋 | 616基 | 補強材の重量増加による基礎部への影響を未計算 |
道路橋示方書等の技術基準では、大規模地震(レベル2地震動)時において、損傷が限定的で早期に機能回復が可能な「耐震性能2(B種橋梁)」の確保が求められています。しかし、耐震性能不足と判定された161橋(359基)では、地震時の水平力や増大した死荷重により、基礎部が破壊に至るリスクを抱えたまま補強工事が完了していました。
また、246橋では過去の施工図面や地盤調査資料が散逸しており、現行基準に基づく安全性の確認すらできない状態でした。
経緯と基準運用の時系列
本件に至るまでの経緯は以下の通りです。国土交通省は過去にも注意喚起を行っていたものの、各道路管理者や設計現場への浸透が不十分であったことが判明しています。
- 2015年(平成27年):国土交通省が緊急輸送道路の道路管理者に対し、橋梁耐震補強における下部工・基礎部の留意点を提示。
- 2016〜2024年度(平成28〜令和6年度):第5次社会資本整備重点計画等に基づき、全国で巻き立て工法による耐震補強工事が推進される。
- 2026年(令和8年)3月および6月:会計検査院の調査過程における指摘を受け、国土交通省が各地方整備局および自治体等の道路管理者に対し、基礎部の照査手法の周知および対象橋梁の再点検を指示する事務連絡を発出。
- 2026年(令和8年)9月28日:会計検査院が検査結果を公表。国土交通省において改善措置が講じられた事項として発表。
新愛宕橋に見る設計・照査段階の具体的過失
具体的な指摘事例として、国土交通省三重河川国道事務所が2018年度に耐震補強工事を実施した新愛宕橋(三重県松阪市)が挙げられています。
新愛宕橋(上り線)の第2橋脚では、上部構造および橋脚の耐震補強に伴い、基礎フーチングにかかる荷重が増加していました。設計計算書を精査したところ、大規模地震時にフーチングへ作用するせん断力は2,318.93kNに達していました。これに対し、フーチングの許容耐力は1,560.36kNにとどまっており、照査段階で耐力を約48%超過している数値が算出されていたにもかかわらず、基礎の追加補強を行わずに工事が進められていました。
設計照査のプロセスで数値の不整合が見落とされ、発注者側の検査体制も機能していなかった実態が示されています。
参考記事: 橋梁定期点検(近接目視)とは?5年ごとの判定基準と現場課題・最新技術を解説
建設業界各プレイヤーへの実務的影響
会計検査院による今回の指摘は、緊急輸送道路を管理する行政機関にとどまらず、設計コンサルタントおよび施工を担当するゼネコンの実務プロセスへ波及します。
行政・道路管理者:再照査の実施と発注仕様の見直し
各地方整備局や都道府県・政令指定都市などの道路管理者は、2016〜2024年度に実施した耐震補強工事の設計図書および構造計算書の再照査を迫られます。
図面や地盤データが欠損している246橋については、現地でのコア採取や非破壊検査、弾性波探査などを用いた基礎諸元の再調査が必要となります。再照査によって耐震性能不足が確定した橋梁に対しては、追加の基礎補強(マイクロパイル工法や地盤改良工法など)を発注するための予算確保と設計変更の手続きが発生します。また、今後の補強工事発注においては、上部工・下部工・基礎部を一体として照査することを特記仕様書へ明記する動きが進んでいます。
設計事務所・建設コンサルタント:照査体制の再構築と責任範囲の拡大
設計コンサルタントにとっては、設計責任と照査プロセスの厳格化が直結する課題となります。
従来の耐震補強設計では、落橋防止構造の設置や橋脚柱部の巻き立てといった「変形性能の向上」に主眼が置かれ、増大した死荷重が基礎杭や直接基礎に及ぼす影響の確認が形骸化していた現場がありました。今後は、橋脚の巻き立て厚さや鉄筋量に応じた自重増を正確にモデル化し、上部構造から地盤までの荷重伝達を立体連動解析などで検証する照査フローが標準化されます。過去の設計成果品に対する瑕疵担保責任や損害賠償リスクへの対策として、社内照査体制の二重化や第三者機関によるレビュー体制の構築が求められます。
ゼネコン・施工管理技術者:設計図書の疑義照会と施工プロセスの変化
元請けゼネコンおよび現場の施工管理担当者は、設計図書の照査(フロントローディング)において、基礎部に関する確認項目が大幅に増加します。
補強工事の着工前に行う設計図書照査において、基礎部の許容支持力やフーチング耐力が新設補強材の重量を考慮したものになっているかを精査しなければなりません。不整合が疑われる場合は、施工着手前に発注者へ疑義照会を提出し、設計変更の協議を行う必要があります。これを怠って設計通りの施工を進めた場合、将来的な事故や再検査時に施工者側の過失を問われるリスクが生じます。
また、供用中の緊急輸送道路における追加の基礎補強工事は、桁下空間の空頭制限や地下埋設物の錯綜など厳しい施工制約を伴うため、小型削孔機械を用いた特殊基礎工法への対応力が受注競争力を左右します。
参考記事: 出来形管理基準及び規格値とは?品質管理との違いや主要工種の許容範囲・最新ICT活用まで解説
ConShiftの視点:部分最適改修の限界とデータ統合管理への移行
今回の問題は、部材単位の「部分最適」で進められてきた従来のインフラ改修手法が抱える構造的リスクを示しています。柱部をコンクリートや鋼板で巻き立てて耐力を向上させても、基礎部がその荷重に耐えられなければ、構造物全体としての耐震性能は成立しません。
この課題を根本から解消するためには、設計から維持管理までのデータを一元化するアプローチが必要です。
国土交通省が原則適用を進めているBIM/CIMの活用は、この構造連動の欠落を防ぐ有効な手段となります。3次元モデルに部材重量や材料物性、基礎杭の耐力データを属性情報として統合すれば、橋脚補強による重量増加が基礎フーチングや支持地盤へ与える応力変化を自動的にシミュレーション可能です。
新愛宕橋のように、作用せん断力(2,318.93kN)が許容耐力(1,560.36kN)を超過している状態を、手計算や個別図面の照査に依存せず、連動モデル上で検知する仕組みを構築することが、今後のインフラマネジメントにおいて不可欠となります。
参考記事: BIM/CIMとは?原則義務化の運用ルールと実務での導入メリット・導入ステップを解説
参考記事: インフラ長寿命化計画とは?予防保全への転換と実務担当者が押さえるべき計画策定のポイント
まとめ:明日から意識すべき実務ポイント
- 着工前照査の徹底:耐震補強工事の施工計画時、橋脚の巻き立てによる増重量が基礎部(フーチング・杭)の計算書に正しく反映されているかを照査項目に加える。
- 疑義照会の迅速化:新愛宕橋の事例にあるような耐力超過や基礎図面の欠損が確認された場合、着工前に書面による疑義照会を発注者へ提出し、設計変更の協議を完了させる。
- 3次元データの確認:BIM/CIM適用工事においては、上部工・下部工・基礎部が連動した荷重計算が行われているかをモデル属性情報から確認する。
出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: 会計検査院



