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Home > 法規制・制度> 国土交通省、標準労務費の追跡調査を10月下旬開始|契約書精査で実態検証
法規制・制度 2026年10月6日

国土交通省、標準労務費の追跡調査を10月下旬開始|契約書精査で実態検証

国土交通省、標準労務費の追跡調査を10月下旬開始|契約書精査で実態検証

国土交通省は2026年10月5日、改正建設業法に基づく標準労務費の運用状況を把握するフォローアップ調査を2026年10月下旬から開始することを決定しました。民間大規模建築や公共土木など幅広い現場を対象に契約関係書類の確認やヒアリングを行い、2027年1月までに労務費が末端技能者へ届かないボトルネックを特定します。

標準労務費フォローアップ調査の全体像と実施スキーム

国土交通省の中央建設業審議会(中建審)「労務費の基準に関するワーキンググループ(WG)」は2026年10月5日、標準労務費(労務費に関する基準)の浸透度と実効性を検証する新規追跡調査の実施計画を了承しました。

本調査は、見積もりから契約締結、実際の支払いに至る各商流プロセスにおいて、適正な労務費が削られることなく技能者に支払われているかを検証するものです。2026年10月下旬から2027年1月にかけて実施され、結果は2027年2月までに同WGへ報告されます。

今回の調査は法令違反を取り締まる行政処分を目的としたものではなく、労務費行き渡りを阻む商慣行の構造的課題を抽出するための「試行」として位置付けられています。国土交通省はこの結果を基に追加の制度的施策を検討し、2027年4月以降には対象を拡大した第2回調査を実施する予定です。

3つの調査手法と対象範囲

調査は「見積書調査」「阻害要因調査」「CCUSレベル別年収調査」の3つの枠組みで進められます。

調査区分 主な対象工種・対象現場 調査規模 主な確認項目
見積書調査 鉄筋工、型枠工 各都道府県1社程度(各社2現場) 提出見積書と標準労務費基準値との乖離、標準見積書の活用状況
阻害要因調査 民間大規模建築、住宅建築、公共土木 民間建築最大20社、住宅最大15社、公共土木は対象工事全契約 発注者・元請・下請間の価格交渉履歴、契約書類、減額要請の有無
CCUS年収調査 左官工、内装工 全国9ブロック各数社 賃金台帳・作業員台帳から算出した想定年収とCCUS基準年収の比較

見積書調査:躯体主要2職種における基準値との乖離検証

見積書調査では、躯体工事の基幹となる鉄筋工事および型枠工事を対象とします。各都道府県から選定された工事業者が、標準的な仕様・作業内容の工事において注文者へ提出した最終見積書を抽出します。これを標準見積書の書式に再整理し、実際に計上された労務費の単価・総額が、中建審の定めた標準労務費の基準値とどの程度乖離しているかを都道府県別に照合します。

阻害要因調査:民間大規模建築から公共土木までの商流追跡

阻害要因調査は、サプライチェーンのどの段階で労務費の目減りが発生しているかを追究する調査です。対象は以下の3カテゴリーに分かれます。

  • 大手デベロッパー発注の民間大規模建築工事(最大20社程度)
  • 大手住宅メーカーによる住宅建築工事(最大15社程度)
  • 都道府県発注の公共土木工事(対象工事の全契約)

民間建築工事では発注者から元請、躯体系・仕上げ系・設備系の各専門工事業者に至る多重下請構造の各階層を対象とし、契約書面、注文書・請書、変更契約の履歴を突き合わせます。公共土木工事については下請次数が限られる特性を踏まえ、対象工事に含まれるすべての契約関係を網羅的に確認します。

CCUSレベル別年収調査:仕上2職種の実態賃金と基準値の突き合わせ

建設キャリアアップシステム(CCUS)レベル別年収調査では、内装仕上げに関わる左官工と内装工の2職種を対象に実施します。CCUSの能力評価基準に基づき設定されたレベル別年収(全国9ブロック別の標準値・目標値)と、実際の支払賃金が一致しているかを検証します。対象企業の賃金台帳、作業員台帳、出勤簿などを収集し、技能者個人の保有資格・経験年数に応じた想定年収を算定した上で、基準値との差異を精査します。

参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?2024年建設業法改正で変わる実務と見積・契約のポイント

制度化から調査着手に至る経緯

標準労務費の運用確認が本格化する背景には、2024年の建設業法改正から続く一連の法制化プロセスがあります。

  • 2024年6月:建設業法等の一部を改正する法律(第3次担い手3法)が公布
  • 2024年9月:中建審に「労務費の基準に関するWG」を設置
  • 2025年12月2日:中建審が標準労務費を作成し国土交通大臣へ勧告(13職種分野・99種類を設定)
  • 2025年12月12日:改正建設業法が全面施行(著しく低い労務費による見積り・契約の禁止)
  • 2026年3月26日:中建審WG(第12回)にて施行後のフォローアップ方針を検討
  • 2026年6月25日:CCUS処遇改善推進協議会において年内の実態調査着手方針を公表
  • 2026年10月5日:中建審WG(第13回)にて3調査の実施要領を了承

法制度の施行から1年弱が経過した段階で、制度が実際の契約現場で形骸化していないかを定量的に測定するフェーズに入ったことを示しています。

参考記事: 改正建設業法(2024・2025年施行)のポイントを解説|標準労務費と契約実務の変更点


建設業界の各プレイヤーに生じる影響

今回の追跡調査は、元請ゼネコン、下請専門工事会社、そして発注者の3者に対し、従来の契約・見積実務の再編を促す要因となります。

ゼネコン(元請け):契約根拠と価格決定プロセスの説明責任

元請ゼネコンは、発注者との請負契約書面と、下請業者との間で交わした注文書・請書の整合性を客観的に証明する管理体制が求められます。

今回の阻害要因調査では、最大20社規模の民間大規模現場において、見積書の受領日から契約締結日までの価格交渉履歴や、設計変更時の協議記録が確認対象となります。下請業者から提出された労務費内訳明示見積書に対し、合理的な根拠のない減額や、一括値引き(歩引き)を適用した契約実態が確認された場合、調査後の政策提言を通じて指導対象の類型化が進む公算が高くなります。現場ごとの積算基準と購買部門の調達基準を平準化し、標準労務費を下回らない契約プロセスのログを社内に残す運用への移行が必要です。

専門工事業者(下請け):標準見積書の提出と賃金台帳管理の厳密化

専門工事業者にとっては、自社の見積書に標準労務費を確実に反映し、かつ受注した金額を技能者の基本給や手当へ適正に配分していることを帳票上で示す必要があります。

見積書調査の対象となる鉄筋・型枠工事業者や、年収調査対象となる左官・内装工事業者は、過去の見積書や賃金台帳の提出を求められます。労務費を削った受注競争に依存している企業は、適正労務費を算出し提示する積算能力の不足が浮き彫りになります。また、CCUSの事業者登録・技能者登録を済ませているだけでなく、CCUS上の就業履歴と実際の賃金台帳の支給額を連動させ、レベルに応じた昇給基準を整備しているかどうかが問われます。

参考記事: 建設キャリアアップシステム(CCUS)とは?2026年完全義務化への対応と導入メリット・登録手順を解説

民間デベロッパー・住宅メーカー(発注者):ダンピング発注リスクの顕在化

民間建築の調査対象として大手デベロッパーの大規模建築工事や大手住宅メーカーの請負工事が指定されたことは、施主側の調達行動にも直接的な影響を及ぼします。

これまで労務費の確保は建設業者間の問題として処理されがちでしたが、阻害要因調査では発注者と元請ゼネコン間の協議実態にメスが入ります。市場価格との乖離を無視した指値発注や、資材高騰分のみを認めて労務費の上昇分を圧縮させるような価格決定を行っていた場合、政策検討の場でボトルネックの発信源として特定されます。発注者側も、中建審が勧告した標準労務費の基準を理解し、事業採算計画の初期段階から適正な労務原価を織り込んだ予算設計を行う必要があります。


ConShiftの視点:労務費の「調整弁化」を排除するデータ包囲網

今回の追跡調査における最大の特徴は、従来の「アンケート形式による自己申告調査」から、「契約書・見積書・賃金台帳という実証データの突き合わせ調査」へと手法が踏み込んでいる点にあります。

これまで建設業界では、総工費の枠組みが決まった後、資材費や外注費のしわ寄せが最終的に下請技能者の人工単価(日当)で相殺される構造が続いてきました。改正法によって「著しく低い労務費による見積り・契約の禁止」が規定されたものの、契約書面上で労務費が独立して明示されていない場合、実態把握は困難でした。

今回のスキームでは、躯体2職種(鉄筋・型枠)の見積書チェック、民間大規模工事の多重下請トレース、そして仕上げ2職種(左官・内装)におけるCCUSレベル別年収と賃金台帳の照合が同時に走ります。川上の「見積もり・契約」と川下の「末端賃金支払い」の双方からデータを突き合わせることで、「どの階層のどの工事項目で労務費が目減りしたのか」を特定できます。

2026年5月末時点で「技能者を大切にする企業の自主宣言」を行った企業は3,448社に達し、CCUSレベル別年収の基準も全国9ブロック・43職種で整備されています。公的な基準値が整った環境下で実施される今回の調査結果は、2027年4月以降に予定される第2回調査の拡大だけでなく、建設Gメンによる監視強化基準の策定や、適正賃金支払いを担保するコミットメント条項の義務化議論へ直結します。労務費を価格競争の調整弁とする商慣行は、取引証跡の透明化によって成立し得なくなります。


まとめ:明日から施工管理・経営で意識すべきこと

今回の調査は試行的な位置付けですが、示された調査項目は今後の契約監視における標準基準となります。建設各社は次の運用見直しに着手すべきです。

  1. 下請見積における標準労務費の乖離確認

一次・二次下請から受領する見積書について、労務費が法定福利費を含めて明確に区分されているかを確認し、中建審の基準値との乖離がないか台帳管理を行うこと。

  1. 価格交渉・減額合意時の協議プロセスの書面化

発注者または下請業者との間で契約金額の増減が生じた際、労務費を減額対象としていないことを示す協議メモや変更内訳書を契約書面に添付して保管すること。

  1. CCUS登録レベルと賃金台帳の照合作業

自社および専属下請の技能者が保有するCCUS技能レベルと、実際に支給している基本給・手当の額を突合し、職種別の基準年収を満たしているかを点検すること。

労務費の適正な受け渡しは、コンプライアンスの遵守にとどまらず、適正価格で工事を受注し職人を確保し続けるための事業基盤に直結します。


出典: 建設通信新聞Digital
出典: 国土交通省
出典: 一般財団法人建設物価調査会

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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