国土交通省は2026年10月19日、マンション大規模修繕工事をめぐる談合問題の再発防止に向け、「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」の初会合を開催した。公正取引委員会による排除措置命令と計16億3788万円の課徴金納付命令を受けた動きであり、2026年度末までに事業者選定プロセスの透明化に向けた対策を取りまとめる。
大規模修繕をめぐる不正是正に向けた検討会の設置経緯
今回の検討会設置は、設計コンサルタント会社2社と施工会社40社が関与した大規模な入札談合に対し、公正取引委員会が2026年9月28日に下した行政処分を直接の契機としている。住民の専門知識不足を補うべき立場にある設計コンサルタントが不正な受注調整を主導し、工事費の約5%をバックマージンとして受領していた構造が確認された。
行政処分から検討会立ち上げまでの時系列
国土交通省による過去の注意喚起から、公取委の立入検査、今回の検討会初会合に至る経緯は以下の通りである。
| 年月日 | 主体 | 実施内容・手続き |
|---|---|---|
| 2017年1月27日 | 国土交通省 | 設計コンサルタントと施工業者の癒着やキックバックに関する注意喚起を通知 |
| 2025年3月4日 | 公正取引委員会 | 独占禁止法違反の疑いで関東地区の施工会社など約20社に立ち入り検査を実施 |
| 2026年7月28日 | 公正取引委員会 | 東海3県(愛知・岐阜・三重)の大規模修繕に関与した28社へ立ち入り検査を実施 |
| 2026年9月28日 | 公正取引委員会 | 計38社に排除措置命令、計37社に総額16億3788万円の課徴金納付命令を発出 |
| 2026年9月28日 | 国土交通省 | マンション管理センター等へ発注等相談窓口の周知を指示 |
| 2026年9月29日 | 国土交通省 | 「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」の設置を発表 |
| 2026年10月19日 | 国土交通省 | 検討会第1回会合を開催。座長に神戸芸術工科大学の松村秀一学長が就任 |
公取委による処分では、関東1都6県のマンション171棟の名称が公表された。2026年7月には東海エリアでも立ち入り検査が行われており、不正な調整慣行は局所的な事象にとどまらない広がりを見せている。
発注方式の実態と設計監理方式の悪用手口
国土交通省の「令和3年度(2021年度)マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、分譲マンションの大規模修繕工事(818件)における発注方式の内訳は以下の水準にある。
| 発注方式 | 構成比 | 特徴と実態 |
|---|---|---|
| 設計監理方式 | 80.1% | 設計事務所が仕様策定から業者選定補助、工事監理までを一括担当 |
| 責任施工方式 | 12.6% | 施工会社が見積もり・設計・工事施工を一括して請け負う形態 |
| その他・不明 | 7.3% | CM方式(コンストラクション・マネジメント)や分離発注など |
市場の8割以上を占める「設計監理方式」において、リノシスコーポレーションや翔設計などの設計コンサルタントは、管理組合の修繕積立金残高や予算上限、業者選定の評価基準といった内部情報を特定の工事業者に漏洩させていた。さらに、意図した「本命業者」を落札させるため、競合他社に対して本命より高い金額で見積もりを提出させる「当て馬(ダミー見積もり)」の手続きを指示していた。
この調整の対価として、落札業者から工事費の約5%相当が手数料名目でコンサルタント側へ還流していた。検討会初会合の冒頭、国土交通省の佐々木俊一住宅局長は「管理組合が安心して発注するために必要な情報や方策について議論いただきたい」と述べ、発注・選定プロセスの再構築を急ぐ方針を示した。
参考記事: 公正取引委員会、修繕談合で37社に課徴金16億円命令|171棟公表
参考記事: [公正取引委員会の28社一斉捜査が東海へ波及|法令遵守体制の再構築が急務](https://conshift.net/2026/08/06/post-96/)
参考記事: 入札談合と独占禁止法の基礎知識|不当な取引制限の判断基準と発覚時の重大リスク
施工・発注・行政の各主体に生じる実務上の影響
有識者検討会の設置と公正取引委員会による処分確定により、マンション大規模修繕市場に関与するプレイヤーの実務環境は変化している。
行政・規制当局:選定ガイドライン改定と監視窓口の拡充
国土交通省は検討会を通じ、2026年度末をめどに事業者選定基準や発注ガイドラインの改定を取りまとめる。2017年の注意喚起通知だけでは防げなかった設計監理方式の悪用に対し、より拘束力のある運用指針の策定を進める方針である。
あわせて、マンション管理センター等の公的機関を通じた相談窓口の運用強化を指示しており、管理組合が不透明な選定プロセスに直面した際の通報・相談体制の整備が進められている。
発注者・管理組合:コンサル依存の見直しと第三者査定の採用
設計コンサルタントへ仕様策定から業者選定までを一任してきた管理組合は、推薦された見積もりをそのまま承認する手続きを見直している。対象マンション171棟が公表されたことで、管理組合側の自衛策としてセカンドオピニオン(第三者建築士による見積書査定)の導入が進みつつある。
施工候補者が提出した内訳明細書の単価・数量について、管理組合の理事会が直接検証する場面が増加しており、選定過程の記録保存や客観的な評価指標の開示が発注条件として求められる傾向が強まっている。
ゼネコン・改修施工会社:営業慣行の刷新と積算根拠の提示
改修工事を手がける元請ゼネコンや専門工事業者にとって、設計コンサルタントとの事前調整や「当て馬」見積もりへの協力は、排除措置命令や課徴金納付、社名公表に直結する重大リスクとなった。
今後は、コンサルタントが指定する内示価格に沿った見積提出ではなく、自社の労務単価、資材調達コスト、標準歩掛に基づいた論理的な積算データの提示が必須となる。管理組合から内訳の妥当性を求められた際に、直接工事費や共通仮設費の算出根拠を客観的に立証できる体制が求められている。
ConShiftの視点:設計監理方式の前提崩壊と選定プロセスの数値化
市場の80.1%を占めてきた「設計監理方式」は、設計コンサルタントの中立性を前提に成立していた。しかし、リノシスコーポレーションや翔設計が工事費の約5%をバックマージンとして受領し、長谷工リフォーム(課徴金約3億2900万円)や伊勝(同約3億8200万円)などの施工会社が受注調整に応じていた実態が公表されたことで、その信頼基盤は失われた。
検討会が2026年度末に取りまとめる対策骨子においては、設計コンサルタントが工事業者の選定や推薦に直接介入することを制限し、仕様書作成と施工監理に機能を分離する制度設計が議論される見通しである。また、管理組合と施工会社の間で直接見積もりをやり取りするデジタル入札プラットフォームの活用など、人的な仲介を排した透明な事業者選定プロセスの導入が現実的な選択肢となってくる。
施工会社側にとっても、従来のコンサルタント営業に依存した受注ルートは消滅する。他社との情報交換を完全に遮断した上で、数量積算の根拠や協力会社の工種別単価をデジタルデータとしてオープンに提示できる企業のみが、適正な競争環境下で評価される市場構造へ移行していく。
まとめ:明日から施工会社が意識すべき実務対応
国土交通省の検討会によるガイドライン策定を見据え、改修工事を担うゼネコンや専門工事業者は以下の3点に対応する必要がある。
- 設計コンサルタント経由の不透明な見積依頼の遮断
内示額の指定や「形式的な見積もり提出(当て馬)」を求められた案件については、営業部門の判断で応じることを禁じ、コンプライアンス部門へ即時報告する社内フローを徹底する。
- 積算根拠(数量計算書・歩掛)のデータ化と開示体制の整備
管理組合から内訳の妥当性について説明を求められた際に即座に提示できるよう、資材調達費、実勢労務費、現場管理費の算出根拠を明細単位で論理的に整理しておく。
- リーニエンシー(課徴金減免制度)を含む内部統制の再点検
YKK APラクシーが自主申告により課徴金・排除措置命令を全額免除された事例を踏まえ、過去の入札・見積履歴に不適切な関与がなかったかを自主点検し、疑義が生じた場合の早期申告手順を確立する。
出典: 建通新聞 電子版
出典: 国土交通省 報道発表資料
出典: 一般社団法人マンション管理業協会(mankan-ju.com)
出典: KFBニュース



