トータルステーションの据え替えやレベル測量に追われ、現場と事務所を何度も往復して残業が膨らむ施工管理業務の負担は、日々の工程進行を大きく圧迫します。戸田建設の施工現場では、iPhoneとGNSSレシーバーを用いた高精度スマホ測量アプリ「OPTiM Geo Scan」を導入し、測量人員を2名から1名へ半減させるとともに測量日あたり2〜3時間の残業時間削減を達成しました。
OPTiM Geo Scanによるスマホ測量の基礎知識
高精度スマホ測量アプリ「OPTiM Geo Scan(オプティム ジオスキャン)」は、LiDARセンサーを搭載したスマートフォン(iPhone)やタブレット(iPad Pro)と、高精度な外付けGNSSレシーバーを組み合わせて使用する3次元測量システムです。現場作業員が端末を携えて対象エリアを歩行するだけで、高密度な3次元点群データをリアルタイムに取得できます。
従来の測量手法では、トータルステーション(TS)やトランシット、光波測距儀を据え付け、プリズムを持つ作業員と器械を覗く作業員の最低2名が必要でした。さらに、測点間の視通が遮られるたびに器械点を盛り替える(据え替える)地道な段取りが不可欠であり、高さ管理には別途レベル測量機器を用意する必要がありました。
Geo Scanを用いた運用では、GNSS補正情報(RTK測位技術など)を活用して地球上の絶対座標(公共座標系)を端末側で直接捕捉します。これにより、三脚の設置や器械点の据え替え作業を挟むことなく、作業員1名のみで広域の現況測量、土工の進捗把握、杭芯などの位置出し(墨出し)を完結させることが可能です。
| 項目 | トータルステーション(TS)測量 | 地上型レーザースキャナー(TLS) | スマホ測量(OPTiM Geo Scan) |
|---|---|---|---|
| 必要人員 | 2名以上(器械手・プリズム手) | 1〜2名(運搬・設置) | 1名(ワンマン計測) |
| 計測方式 | 特定測点の単点計測(線・点) | 定置据置による面的スキャン | 歩行しながらのリアルタイム面スキャン |
| 機材コスト | 数百万円規模 | 数百万円〜1,000万円前後 | 市販iPhone+GNSS(約1/20程度) |
| 習熟期間 | 数ヶ月〜数年の現場実務指導 | 専門講習・ソフトウェア解析教育 | 約30分の基礎レクチャー |
| 高さ計測 | レベル機器併用または標高計算 | スキャナー単体で取得 | GNSS連携により同時に一括取得 |
点群データ取得とリアルタイム処理の仕組み
OPTiM Geo Scanは、iPhoneのLiDARセンサーから照射される近赤外線パルスが対象物に反射して戻る時間を計測するToF(Time of Flight)方式を採用しています。取得した空間の深度情報と、スマートフォンの内蔵カメラが捉えたRGB(色彩)データ、さらに上部に装着した高精度GNSSレシーバーの緯度・経度・標高データを即座に同期・統合します。
歩行に伴って画面上に数百万点規模の3次元点群データが描画され、現場の起伏や構造物の現況がカラー表示で視覚化されます。取得したデータは国土交通省が定める「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」の精度区分(±50mm以内)に適合しており、公共土木工事の出来形管理や検査資料としても直接採用できる精度水準を満たしています。
単点誘導と位置出しを行う「GeoPoint」機能
Geo Scanには、面的な点群スキャンだけでなく、設計図面の座標に基づいて現地へ特定の位置を誘導する「GeoPoint」機能が搭載されています。
設計図面のCADデータ(DXF等)やSIMデータ(シーマファイル)をあらかじめアプリ内に読み込んでおくことで、画面上に表示された目標座標と現在地とのズレがミリ単位でナビゲーションされます。作業員は画面の指示矢印に従って歩くだけで、目標地点の真上にピンポイントで到達できます。平面位置(XY座標)の誘導と同時に地盤高(Z座標)もリアルタイムに照合されるため、杭打ちや法丁(のりちょう)の設置において、高さ確認のためのレベル測量を別個に行う手間がなくなります。
参考記事: OPTiM Geo Scanとは?スマホとGNSSで高精度な3次元測量を実現する特徴と仕組み
戸田建設の土木現場が直面していた運用課題
戸田建設の工事主任・村中氏が担当した神奈川県横浜市の大門川調整池現場(造成面積約1万3,000㎡、調整池約5ha)および千葉県成田市の造成現場では、大規模土工ならではの測量業務の停滞と、現場運用体制における複数の制約に直面していました。
ドローン飛行が法的に制限される広域現場の制約
数ヘクタールに及ぶ広大な造成地や土工現場では、通常、作業効率の観点からUAV(ドローン)写真測量やドローンレーザー測量が優先して選定されます。しかし、横浜市大門川の調整池現場は近隣に基地が存在するエリアに位置しており、航空法や関係法令に基づく飛行規制・制約が厳格に課されていました。
飛行許可申請の手続きやフライトプランの調整、現地での対空標識(標定点・GCP)の設置にかかる工数を考慮すると、日常的な掘削進捗の確認や週1回ペースの定期測量にドローンを飛ばすことは現実的ではありませんでした。広域でありながら空撮技術を自由に適用できない環境下で、地上からいかに少人数かつ短時間で高密度なデータを取得するかが焦眉の課題となっていました。
平均断面法とシーマデータ作成に伴う事務所との往復負荷
従来の進捗管理手法では、測量会社に外注して数十メートルピッチで測点を設け、断面を切って「平均断面法」によりエクセルで土量を算出していました。この手法は現場計測から計算結果の出力までに数日を要し、日々の掘削量やダンプトラックの手配台数を即日判断することが困難でした。
また、トータルステーションによる位置出し作業では、現場に出てから「別のポイントも確認したい」「追加の杭芯位置を出したい」といった状況が発生すると、現場で直接座標を追加・編集することができません。作業員は一旦現場事務所まで戻り、PC上でシーマデータ(.sim)を作り直して専用端末へ再転送した上で、再び現場に向かうという非効率な往復移動を余儀なくされていました。現場管理者は協力会社への指示出しや安全管理のために現場へ張り付く必要があり、一度現場に出ると事務所に戻るタイミングを失い、測量作業そのものが停滞する悪循環が生じていました。
派遣社員や若手技術者への教育コストの増大
建設現場では技能労働者や若手技術者の不足を補うため、外部の派遣社員や測量未経験者の受け入れが増加しています。しかし、従来のトータルステーションやレベルを用いた測量技術は、三脚の水平据え付け(整準・求心)から器械の視通確保、後方交会法の計算に至るまで職人的な習熟を要します。
新入社員や派遣スタッフにTSの基本操作を教えるだけでも1回あたり1時間近くの拘束が発生し、据え方のわずかなズレを修正する指導も含めると、教える指導者側にも教わる側にも重い心理的・時間的負荷がかかっていました。現場ごとに顔ぶれが変わる派遣スタッフに対し、一から手取り足取り専門機器の操作を教え直すサイクルは、現場管理者が注力すべき工程管理や発注者協議などのコア業務を著しく圧迫していました。
参考記事: ドローン測量(UAV写真測量)とは?レーザー測量との違いや精度管理の実務手法を徹底解説
スマホ測量の導入によって得られた定量的・定性的効果
戸田建設ではこれらの課題を打破するため、本社業務推進部門からの提案を契機としてOPTiM Geo Scanを現場へ本格導入しました。その結果、測量作業の省人化、教育工数の短縮、残業時間の抜本的な圧縮という目に見える成果が得られました。
測量作業人員の半減とワンマン計測の実現
従来のトータルステーションを用いた測量では、器械操作と標尺(プリズム)保持のために最低2名の人員拘束が常態化していましたが、Geo Scanの導入により完全な1名体制(ワンマン測量)へと移行しました。
作業員がiPhoneとGNSSポールを持ち、画面に表示される誘導ルートに従って歩くだけで位置出しや現況スキャンが完了するため、ペアを組む相手のスケジュールを調整する必要がなくなりました。少人数で運営される現場においても、他の管理者が打合せや他工区の施工確認に専念している間に、単独で測量業務を滞りなく進められる運用体制が確立されました。
教育時間を数十分へ短縮し未経験者が即戦力化
直感的なスマートフォンUI(ユーザーインターフェース)を採用しているGeo Scanは、専門的な測量知識を持たない若手社員や未経験の派遣スタッフであっても、約30分のレクチャーを行うだけで単独作業が可能になりました。
日常的に使い慣れているスマートフォンの画面をタップして操作するため、機器操作に対する心理的ハードルが極めて低く抑えられます。成田市の造成現場では、盛土の沈下盤の設置に伴う位置出し業務などを若手社員が一人で担当できるようになり、工事主任が現場指導に割いていた時間を減らし、他のコア業務に時間を割けるようになりました。
| 管理項目 | 導入前の従来運用 | Geo Scan導入後の運用 | 改善効果 |
|---|---|---|---|
| 測量体制 | 2名体制(器械手+プリズム手) | 1名体制(スマホ保持・歩行) | 作業人員を50%削減 |
| 新人・派遣教育 | 1回あたり1時間近く+継続指導 | 約30分の基本レクチャー | 教育時間を大幅に削減 |
| 測量日の残業 | 2〜3時間/日が常態化 | 残業ほぼゼロ(定時内完結) | 1日あたり2〜3時間の残業削減 |
| 土量計算の場 | 事務所PC(エクセル・平均断面法) | 現場のスマホ上で即時計算 | 手間と待ち時間を即日解消 |
| 図面データ修正 | 事務所に戻り.simデータ再作成 | アプリ内で図面確認・ポイント指定 | 現場・事務所間の移動往復ゼロ |
測量日あたり2〜3時間におよぶ残業時間の削減
Geo Scanの導入前は、1時間程度で終える予定で現場に向かっても、視通の遮断や器械の再設置、レベルによる高さ確認が重なり、3〜4時間現場に拘束されるケースが頻発していました。夕方に現場作業を終えてから事務所に戻り、手書きの野帳データや測量数値をPCへ入力・整理していたため、測量を実施した日は1日あたり約2〜3時間の時間外労働が常態化していました。
Geo Scanへ切り替えたことで、計測データや3次元点群はクラウドを通じて即時に処理・保存されます。現場での計測時間そのものが大幅に短縮されたことに加え、事務所に戻ってからの煩雑な内業データ整理が解消された結果、測量日に発生していた2〜3時間の残業はほぼ完全に一掃されました。
現場完結型の土量計算による手戻りと移動の撲滅
現場での施工管理において劇的な変化をもたらしたのが、スマートフォン端末上での「即時体積計算・数量計算」機能です。
造成工事の現場では、仮置きされた盛土の残土量確認や、ダンプトラックの必要配車台数の算出といった判断が日常的に発生します。従来は事務所に戻って測量データを解析するまで確定値が出せませんでしたが、Geo Scanを用いれば、現場で仮置き土の周囲を歩いて点群を取得し、その場ですぐに立方メートル(㎥)単位の体積を算出できます。協力会社の職長やダンプの運行管理者に対し、事務所へ戻ることなくその場で正確な指示を出せる環境が整い、意思決定のスピードが飛躍的に向上しました。
参考記事: 点群データ・3次元測量とは?基礎知識から2次元測量との違い・取得手法の選び方まで解説
施工現場へスマホ測量を定着させる実践ステップ
戸田建設のような大手ゼネコンだけでなく、中堅・中小建設会社や地場工務店がスマホ測量を導入し、失敗せずに現場定着を図るための具体的なプロセスを整理します。
ハードウェアの選定とGNSS受信環境の確保
スマホ測量を成立させるためには、LiDARセンサーを搭載したiOS端末(iPhone ProシリーズまたはiPad Pro)と、センチメートル級の高精度測位を可能にする外付けGNSSレシーバーの選定が起点となります。
GNSS測位を正確に行うためには、上空視界が開けていることが前提条件です。山間部やビル街、高架下など、衛星電波の受信が困難な環境では測位精度が低下するリスクがあります。近年では、衛星電波が受信しにくい閉鎖空間や地下空間においてトータルステーションとGeo Scanを連携させ、絶対座標を補正しながら点群を取得するオプション機能も実用化されています。現場の立地条件や工種に応じて、GNSS単独運用かTS連携かを適切に選択する必要があります。
CAD図面・座標データの事前準備フロー
現地での作業をスムーズに進めるためには、事前の図面データ準備が鍵を握ります。現場に持ち込む平面図や杭芯位置のデータは、現場の基準点座標系(世界測地系・平面直角座標系)に正しく整合させておく必要があります。
具体的には、設計図面のDXFデータやSIMデータ、または主要な測点のXYZ座標一覧(CSV形式)をあらかじめクラウド経由でアプリにインポートしておきます。これにより、現場到着後すぐに誘導モードを起動し、図面上の任意の位置をタップして位置出し作業へ移ることができます。
取得した点群データの解析とBIM/CIM連携
Geo Scanで取得した点群データは、LAS形式などの汎用フォーマットでエクスポートできます。取得したデータは専用のクラウドプラットフォームや点群処理ソフトウェア(TREND-POINTなど)にアップロードし、不要な重機・作業員のノイズ除去やTINメッシュ生成を行います。
戸田建設の現場では、オプティムが提供するデータ変換サポートサービスを併用し、取得した点群データを希望スケジュールに合わせた3次元設計データへとモデリングしました。生成された3次元モデルは、出来高の数量報告や発注者との設計変更協議における公式な提出資料としてそのまま活用されています。
【点群取得から数量協議までの実務ワークフロー】
[現場作業]
iPhone+GNSSで歩行スキャン
│
├─→ 現場端末上で体積・土量を即時確認(協力会社への指示出し完了)
│
[データ連携]
クラウド経由で点群データ(LAS形式)をアップロード
│
[オフィス・サポート解析]
ノイズ除去・TINメッシュ生成・3次元設計モデリング
│
[発注者協議]
出来高数量計算書・3次元比較図面として提出・合意形成
ICT建機を使わない土工における丁張り代替への展開
スマホ測量の適用範囲は、起工測量や出来形確認にとどまりません。成田市の造成現場において戸田建設が試みているように、ICT建機を導入していない小規模土工や断切り法面の施工管理において、従来の木製丁張りを代替する手法としての活用が広がっています。
法面ごとに木杭を打ち込んで丁張りを設置する作業は、多大な人工と時間を消費します。Geo Scanの誘導機能と高さ管理機能を活用すれば、重機のオペレーターに対してスマホ画面から掘削深さや法勾配の数値を直接指示できるため、丁張り掛けの工数を大幅に削減し、少人数での土工推進が可能になります。
参考記事: 施工管理アプリ(クラウド型)入門|導入メリットと失敗しない選び方を徹底解説
スマホ測量が促す現場マネジメントの標準化
戸田建設におけるOPTiM Geo Scanの導入実績は、測量機器の操作という属人的な職人技能がスマートフォンによって標準化され、誰でも即座に扱える日常作業へと変化した実態を示しています。
従来のトータルステーションやレベル測量に依存した体制では、専門器具の据え付けや計算手順を知る一部の熟練技術者に作業が集中し、現場監督が専門技能の指導員役を強いられていました。スマホ測量への移行によって、新入社員や派遣スタッフが30分程度の習熟で即戦力化し、1名体制で高精度な位置出しや点群取得を完結できるようになります。
現場監督が計測作業や事務所との往復移動、データ整理に伴う長時間残業から解放されることで、本来注力すべき発注者との協議、工程計画の立案、品質・安全・原価管理といったマネジメント業務に集中できる環境が整います。直感的に扱えるデジタルツールの実装は、現場の作業負担を最小化し、限られた人員で施工品質を担保するための現実的な解決策となります。
出典: デジコン



