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施工管理 2026年8月24日

清水建設、正答率93%を実現した生成AI現場定着の組織戦略

清水建設、正答率93%を実現した生成AI現場定着の組織戦略

日立製作所の全社横断AI推進コミュニティ「AIカフェ」第10回が2026年7月30日に開催され、清水建設の古川慧氏が建設現場に生成AIを定着させる組織変革と実践知を共有しました。一品生産で非定型業務が多い建設現場において、ツールの導入にとどまらず現場主導で運用を根付かせる仕組みづくりは、業界全体の生産性向上とAX(AIトランスフォーメーション)を加速させる重要な先行事例となります。

日立製作所「AIカフェ」第10回の開催概要と登壇の背景

アンドドット株式会社の企画運営支援のもと、株式会社日立製作所が主催する全社横断的なAI推進者コミュニティ「AIカフェ」の第10回が2026年7月30日にオンライン開催されました。今回はゲストスピーカーとして清水建設株式会社 NOVAREイノベーションセンター AI共創グループ グループコンダクターの古川慧氏が登壇し、「建設業界の最前線から学ぶ、AI活用のリアル」をテーマに講演を行いました。

異業種交流を促す「AIカフェ」の枠組みと関係者の役割

「AIカフェ」は、日立製作所が全社横断で生成AI活用を推進するために立ち上げた社内コミュニティです。ランチタイムを活用してリラックスした雰囲気の中で知見を深める形式を採り、2025年12月の取り組み公表以降、通信、精密機器、不動産など多様な業界のフロントランナーを招聘してきました。第10回の節目となった今回は、業務の標準化や自動化の難易度が高いとされる建設業界の最前線から、現場実装のリアルな知見が共有されました。

本イベントに関与した主要なプレイヤーと登壇者の役割は以下の通りです。なお、3社間に資本関係はなく、外部支援および知見共有を目的とした共創関係として連携しています。

企業名 役割 / 登壇者 主な位置づけ・関わり
株式会社日立製作所 主催(営業企画統括本部 本部長付AIアンバサダー 大山 友和 氏) 社内AI推進コミュニティ「AIカフェ」を全社横断で企画・展開
アンドドット株式会社 企画運営支援(代表取締役 茨木 雄太 氏) コミュニティ運営、外部有識者の招聘、当日のファシリテーションを担当
清水建設株式会社 ゲスト登壇(NOVAREイノベーションセンター 古川 慧 氏) 建設現場における生成AI・RAGの実装および組織定着のノウハウを提供

清水建設が直面した「技術の壁」と「組織の壁」

建設業は、プロジェクトごとに構造・工法・敷地条件・地質・関係法令が異なる「現地・一品生産」を基本としています。そのため、製造業のように製造ラインを固定化して定型作業を自動化することが極めて困難なレガシー産業の代表格といえます。

清水建設における生成AI活用は、2019年以降の全社員向けリテラシー研修(G検定合格者300名超の輩出)などの人材基盤を土台に、2023年春の設計者・技術者支援AI構想から本格化しました。しかし、施工管理基準や社内技術文書を対象としたRAG(検索拡張生成)の初期検証では、大きな壁に直面することになりました。

建設現場の技術文書には、専門用語だけでなく、複雑な図面、施工写真、特有の単位表記や数値データが多用されています。汎用的な大規模言語モデル(LLM)ではこれらを正確に解釈できず、初期段階の検証(50問のテスト)における正答率はわずか35%に低迷しました。この「技術の壁」を打破するため、同社は外部のAIスタートアップ等の開発パートナーと共創体制を組み、建設ドメインに特化したプロンプトエンジニアリングや検索アルゴリズムの最適化を推進しました。その結果、正答率を93%まで向上させることに成功しました。

フェーズ 取り組み内容 成果および顕在化した課題
2019年〜(人材基盤育成) 全社員向けAIリテラシー研修の推進 G検定合格者を300名以上輩出、社内リテラシーの底上げ
2023年春(検証初期) 施工系技術文書を対象としたRAG技術検証 専門図面や独自表記の解釈が難しく初期テスト正答率は35%
技術改善・最適化期 外部パートナーとの共創による検索エンジンの改良 建設特有のデータ処理を最適化し正答率93%を達成
現場トライアル・全社展開 支店トライアル、体験型セミナー、社内ハッカソンの展開 約3,000人規模への全社展開を完了し自発的な活用文化が定着

参考記事: 清水建設、生成AI正答率93%達成と3000人展開に見る現場主導DX

「導入」から「定着」へ導いた重層的なアプローチ

技術的な精度向上を果たした後に立ちはだかったのが「組織の壁」でした。多忙を極める現場監督や施工管理者にとって、新しいデジタルツールの導入は「操作を覚えるための追加業務」と捉えられやすく、心理的・実務的な抵抗感が生まれがちです。また、情報漏洩を防ぐための厳格すぎる利用申請フローやセキュリティ規定も、現場の自発的な利用を妨げる要因となっていました。

清水建設は、この組織的摩擦を解消するために「トップダウンによる障壁除去」と「ボトムアップの仲間づくり」を組み合わせたハイブリッドな推進策を展開しました。

1. トップダウンによる利用障壁の撤廃

経営層や管理部門が主導し、セキュリティガイドラインの刷新と利用申請プロセスの大幅な簡素化を実施しました。現場が試行錯誤しやすい環境を整えることで、利用開始時の心理的ハードルを下げました。

2. 実務直結型の体験型ハンズオンセミナー

ツールの機能説明に終始する座学研修ではなく、現場監督が日々直面している施工計画書のドラフト作成や仕様書検索をその場でAIに処理させる実践型ワークショップを開催しました。「自分の実務時間がその場で短縮された」という具体的な成功体験を積ませることで、現場の納得感を高めました。

3. 社内SNSを通じたプロンプト共有コミュニティの形成

現場で実際に効果のあったプロンプト(指示文)や活用ノウハウを、社員同士が気軽に投稿・共有できるオープンな社内コミュニティを運営しました。優れた事例が自然発生的に全社へ横展開される土壌を整えました。

4. 現場・開発者・ベンダーが一体となる社内ハッカソンの開催

現場の技術者、本社のAI開発チーム、外部ベンダーが混成チームを組み、短期間で実際の現場課題を解決するプロトタイプを作り上げる社内ハッカソンを実施しました。現場監督自身が「ツールの受動的な利用者」から「業務を自ら再設計する変革の主体」へと意識を変える契機となりました。

参考記事: 矢作建設が2026年8月にAI共同開発を開始|独自工法の積算効率化へ


建設業界の主要プレイヤーに及ぼす波及効果

清水建設が日立製作所の「AIカフェ」で明かした実装プロセスと組織づくりの知見は、元請けゼネコン、現場監督・施工管理者、建機メーカーやITベンダーのそれぞれに重要な示唆を与えています。

ゼネコン(元請け):PoCの繰り返しから「カルチャー変革」への投資シフト

多くのゼネコンにおいて、生成AI活用は先端技術部門による限定的なPoC(概念実証)にとどまり、現場展開の手前で停滞するケースが散見されます。しかし、清水建設の事例が明確に示したのは、AI活用の投資対効果(ROI)を左右する最大の要因はモデルの性能そのものではなく、現場への「定着プロセス」にあるという点です。

元請け各社の経営陣は、単なるソフトウェアライセンスの購入やシステム開発予算にとどまらず、社内コミュニティの形成、実践的なハンズオン研修、ハッカソン開催といった「組織カルチャーの変革」に対するリソース配分を加速させる必要があります。現場が日常業務の中でAIを使いこなす土壌を早期に築けるかどうかが、中長期的な企業競争力と生産性の格差に直結します。

現場監督・施工管理者:書類作成の作業者から「施工マネジメントの司令塔」へ

2024年4月に適用された時間外労働の上限規制以降、建設現場では業務時間の抜本的な削減が必須となっています。生成AIが現場に定着することで、日報作成、安全書類の整備、過去の施工トラブル事例の検索といった膨大な事務作業が大幅に圧縮されます。

これにより、現場監督は机上の書類作成に追われる状態から解放され、品質管理、工程の最適化、安全巡回といった本来注力すべきコア業務に専念できるようになります。さらに、社内コミュニティやハッカソンを通じて現場の暗黙知を言語化し、AIへの適切なプロンプトとして落とし込めるスキルを持つ技術者は、次世代の現場リーダーとして社内で高い評価を受けることになります。

建機メーカー・ITベンダー:「売り切り型」から「現場伴走型共創」へのビジネスモデル転換

建設テックベンダーやSaaS事業者、建機メーカーにとって、汎用的なパッケージを単体で納入する従来のビジネスモデルは限界を迎えつつあります。現場ごとに条件が異なる建設業においては、既製品をそのまま導入しても実務に適合せず、利用が形骸化するリスクが高いためです。

ベンダー側には、ゼネコンの社内AI推進チームや現場監督と深く協働し、ドメイン特有のフィードバックを取り込みながらシステムやアルゴリズムを微調整する「伴走型の共創開発」が求められます。また、建機メーカーにおいては、将来的な施工自動化を見据え、自社建機やロボットの制御APIの公開、リアルタイムデータ連携への対応を急ぐ必要があります。

参考記事: 建設業働き方改革加速化プログラムとは?2024年適用後の3本柱と現場の対応手順を解説


ConShiftの視点|事務作業の効率化から「フィジカルAIと施工自動化」への進化

清水建設の講演内容が示唆している最も本質的な構造変化は、建設DXの焦点が「外部ツールの導入による個別作業のデジタル化」から、AIを中核に据えて施工プロセス全体を再構築する「AX(AIトランスフォーメーション)」へと不可逆的にシフトしている点にあります。

【建設AXの進化ロードマップ】

[フェーズ1:個別業務のデジタル化]
  市販ツールの導入、ペーパーレス化、書類作成の効率化(局所最適)
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[フェーズ2:現場主導の生成AI定着(現在の到達点)]
  RAGによる技術文書検索(正答率93%)、ハッカソンによる自発的改善(約3,000人展開)
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[フェーズ3:フィジカルAIと施工自動化の融合(将来展望)]
  BIM・デジタルツイン連動 ──> 人型ロボット・自律建機による物理作業の自動化

テキスト処理の先に見据える「フィジカルAI」との接続

古川氏の講演でも言及されたように、生成AIによる文書作成や情報検索の効率化は、建設AXにおける初期段階に過ぎません。その先に見据えられているのは、生成AIや基盤モデルが現場の物理的なロボットや重機を直接制御する「フィジカルAI(Physical AI)」の領域です。

清水建設では、BIMデータから構造解析モデルを自動生成する「BIM-FEM連携システム」や、山岳トンネルにおけるコンクリート自動吹付けシステム「ヘラクレス-AUTO」の実証など、データと物理空間を高度に結びつける技術開発を加速させています。テキストや図面を理解するマルチモーダルAIが、現場の三次元データ(BIMや点群データ)をリアルタイムに解釈し、自律施工ロボットへ施工指示を直接送る未来の施工体制が具体化しつつあります。

参考記事: 清水建設、55歳以上37%の建設現場へ人型ロボ協調基盤を提唱
参考記事: 清水建設ら5社、トンネル自動吹付けで切羽作業ゼロと時間5%短縮を実証
参考記事: 清水建設、FEM解析モデル生成を3日に短縮!設計変更の即時反映を実現

異業種コミュニティとの共創がもたらすオープンイノベーション

日立製作所の「AIカフェ」に清水建設が登壇したという事実は、レガシー産業におけるDX推進において「異業種間のオープンな知見共有」がいかに重要であるかを象徴しています。製造業であれ建設業であれ、現場と推進部門の温度差や組織の縦割りといった定着時の課題には強い共通性があります。

自社の中だけで技術やノウハウを抱え込む自前主義を脱し、他産業のAI推進コミュニティや外部開発パートナーと連携して実践知を循環させる企業こそが、次世代の建設生産システムの標準化をリードしていくことになります。


明日から現場と経営が意識すべき3つのアクション

生成AIを一過性のブームに終わらせず、自社の持続的な競争力へと転換するために、経営層や現場リーダーが直ちに着手すべき実務的なアクションを整理します。

  1. 現場に眠る「言語化可能な暗黙知」の棚卸しとデータ構造化を進める
    施工計画の策定基準、安全管理の注意点、過去のトラブル対応記録など、現場技術者の頭の中に依存しているノウハウをリストアップします。どの情報がRAGの参照ソースになり得るかを精査し、社内文書のデジタル化と整理を推進します。

  2. ツールの「全社一括強制」を避け、体験型ワークショップで成功体験を作る
    利用率などの形式的な数値を追うのではなく、意欲の高い現場や支店を対象としたハンズオンを実施します。「AIを活用して特定書類の作成時間を30分短縮できた」という現場起点の具体的な成功事例を積み上げ、社内SNS等で横展開します。

  3. 現場とエンジニアが直接対話する「小規模ハッカソン」を企画する
    情報システム部門や先端技術部門だけでツールを開発する体制を改め、現場の若手・中堅技術者とエンジニアが同じテーブルで課題を議論する場を設けます。現場のリアルな困りごとを数日から数週間でプロトタイプ化する迅速な開発文化を醸成します。


出典: プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES
出典: アンドドット株式会社 公式発表

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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