健康保持増進指針の改定で何が変わるか
厚生労働省は2026年10月19日、労働安全衛生法第70条の2第1項に基づく「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」を改正・公示しました。
従来の生活習慣病予防等の一次予防を中心とした対策に加え、がん検診や精密検査の受診勧奨といった疾病の早期発見・早期治療(二次予防)が指針上に明確に位置づけられました。
あわせて、高年齢労働者の身体機能低下に伴う労災リスクに対応した健康測定(フレイルチェック等)や、治療と就業の両立支援等の環境整備が盛り込まれています。
がん検診や高齢化を盛り込んだ改定の背景
定期健康診断の有所見率が増加傾向にあるほか、メタボリックシンドローム該当者および予備群が男性の約2人に1人、女性の約5人に1人に達しています。
さらに、がんは国内の死因第1位であり年間約4人に1人が亡くなり生涯で約2人に1人が罹患すると推計されていること、強い不安やストレスを感じる労働者が高水準で推移していること、労働者の高齢化が進んでいることなどを背景に、発症予防(一次予防)にとどまらず早期発見・早期治療(二次予防)や治療と就業の両立支援を一体的に推進する必要性が高まったためです。
指針改定の経緯と関連施策の位置づけ
本指針は、昭和63年9月1日に「健康保持増進のための指針公示第1号」として策定されて以降、社会経済情勢や働き方の変化に応じて改正が重ねられてきました。
直近では令和8年2月10日(公示第12号)の改正を経て、令和8年10月19日に「公示第13号」として改正・適用されました。
なお、本指針の関連施策として、令和8年2月10日には「高年齢者の労働災害防止のための指針」(指針公示第1号)および「治療と就業の両立支援指針」(厚生労働省告示第28号)も発出されています。
対象となる事業者と担当者
- すべての事業者(元請ゼネコン・下請・専門工事業者等)
- 労働安全衛生法第69条第1項に基づき、労働者の健康保持増進措置を講ずるよう努めるべきすべての事業場。
- 安全衛生担当者・産業保健スタッフ
- 事業場内の産業医、衛生管理者、安全衛生推進者、保健師、人事労務担当者。
建設事業者の健康管理実務に与える影響
- 事業者の健康管理方針・体制への影響
- 単なる健康障害防止だけでなく、がん検診等の二次予防、コラボヘルスの推進、治療と就業の両立支援を計画に盛り込むことが推奨されます。
- 50人未満の小規模事業場においても、労働者の意見を反映させた健康保持増進の取組を進めることが求められます(本通達)。
- 高年齢労働者の就業管理への影響
- 加齢による筋力・認知機能の低下を把握するため、身体機能セルフチェックやフレイルチェック等の実施が例示され、労災防止と一体となった健康管理が促されます。
適用時期
| 事項 | 日付 | 補足 |
|---|---|---|
| 「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」改正・適用(健康保持増進のための指針公示第13号) | 令和8年10月19日 | 公表日と同日に適用 |
| 「高年齢者の労働災害防止のための指針」(指針公示第1号)公表 | 令和8年2月10日 | 指針本文中で参照される関連指針 |
| 「治療と就業の両立支援指針」(厚生労働省告示第28号)公表 | 令和8年2月10日 | 指針本文中で参照される関連告示 |
※ 日付は文書本文に記載されているもののみ掲載しています。
現場・企業で求められる具体的な実務ポイント
- 二次予防(がん検診等)に関する社内環境の整備
- 推奨される5つのがん(胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がん)や女性特有の健康課題、歯科、眼科等の検診受診および精密検査の受診勧奨を行う。
- 社内掲示や通達メールの発出、検診受診のための特別休暇付与や費用助成、両立支援の周知など実態に応じた措置を講じる。
- 高年齢労働者の身体機能低下に着目した健康測定の実施
- 転倒リスク等を確認する身体機能セルフチェック、フレイルチェック、ロコモ度テストなどの健康測定を検討する。
- 必要に応じて自治体の一般介護予防事業の案内や地域包括支援センターへの相談を検討する。
- 健康保持増進計画の策定と個人情報保護の徹底
- 経営トップによる方針表明を行い、課題把握・目標設定・計画策定・評価見直しのサイクルを確立する。
- 健康情報の管理担当者を指名して電磁的方法等で適切に保存・管理し、利用目的の範囲を超えた取扱いを行わないよう厳格に管理する。
高年齢者労災対策と安全衛生経費ガイドラインの動向
- 改正安衛法による高年齢者労災防止の努力義務化
- 2026年4月施行の改正労働安全衛生法により、高年齢労働者の身体特性に配慮した作業環境整備や作業管理が事業者の努力義務とされており、本指針の身体機能チェック等の項目はこうした法制化の流れに沿った内容となっています。
- 安全衛生経費としての健康管理コストの扱い
- 国土交通省の「安全衛生経費ガイドライン」では、労働者の健康確保や特殊健康診断等の費用を請負契約の見積書において内訳明示することが推奨されており、二次予防や健康増進に係る経費の適切な積算・協議が実務上の焦点となります。
よくある質問
Q. 今回の指針改正により、事業者はがん検診の受診や費用補助を義務付けられるのですか?
A. 義務付け(罰則を伴う強制)ではありません。本指針は労働安全衛生法第69条第1項に基づく「事業者が講ずるよう努めるべき措置(努力義務)」の原則的な実施方法を定めたものです。検診機会の提供や費用助成、特別休暇の付与などは、各事業場の実態に合わせて効果的な取組を選択・実施することが求められます。
Q. 衛生委員会を設置していない従業員50人未満の事業場も対象になりますか?
A. 対象になります。本指針は就業形態にかかわらず全ての労働者を対象としており、衛生委員会等の設置義務がない小規模事業場においても、労働者等の意見を反映させながら、可能なものから実態に即して取り組むことが望ましいとされています。
Q. 指針に示されている「推奨されている5つのがん」とは何ですか?
A. 国が「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」において健康増進法に基づき市区町村が実施する検診として推奨している「胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がん」の5つです。事業者はこれらに対する検診の受診や、結果に応じた精密検査の受診勧奨を行うことが考えられるとされています。
関連記事
- 労働安全衛生法(安衛法)の法体系と現場実務|選任基準から安衛則との違いまで徹底解説
- 厚労省が9.8億円概算要求、建設業の高年齢労災対策マニュアル策定へ
- 安全衛生経費の積算・見積り実務|ガイドライン改訂のポイントと内訳明示の手順を徹底解説
- 熱中症対策とWBGTの計算方法と実務基準|現場で命を守る作業判断のポイント
- 建設業働き方改革加速化プログラムとは?適正工期・賃金引き上げ・現場DXを実現する3つの柱を解説
出典
- 発出元: 厚生労働省
- 文書番号: 健康保持増進のための指針公示第13号 / 発出日: 令和8年10月19日
- [事業場における労働者の健康保持増進のための指針][261KB](PDF)
- [事業場における労働者の健康保持増進のための指針(新旧対照表)][421KB](PDF)
- 掲載ページ
- 報道発表
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。個別の対応については行政機関の公式情報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
