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Home > 施工管理> 大成建設とエイシング、直径11mシールド機の自動運転で誤差3mm以内を達成
施工管理 2026年8月27日

大成建設とエイシング、直径11mシールド機の自動運転で誤差3mm以内を達成

大成建設とエイシング、直径11mシールド機の自動運転で誤差3mm以内を達成

大成建設と機械制御向けAIを開発するエイシングは2026年8月27日、独自アルゴリズムを活用したシールドマシンの方向制御AI技術を共同開発し、大断面トンネル現場において目標座標に対する到達誤差3mm以内という高精度な自動運転実証に成功したと発表しました。熟練オペレーターの暗黙知に依存していた複雑な掘進制御をエッジAIが自律化・平準化することで、建設業界が直面する深刻な担い手不足の解消と地下工事の品質・安全性向上を大きく加速させる成果となります。

鹿児島3号東西道路で実証されたシールドマシン自動運転の全貌

都市部の地下インフラ整備や山岳・海底部を貫くシールドトンネル工事は、現代土木において最も高度な制御技術が要求される分野の一つです。今回、大成建設とエイシングが実施した現場実証は、外径11mを超える大断面シールドマシンを対象に、実施工環境下で極めて高い掘進精度を記録しました。

実証実験の概要と達成スペック

実証実験は、国土交通省九州地方整備局が発注した「鹿児島3号東西道路シールドトンネル(下り線)新設工事」において実施されました。本工事は、鹿児島市街地における慢性的な交通渋滞緩和を目的とした大規模道路トンネルプロジェクトであり、施工は大成・大豊特定建設工事共同企業体が担当しています。

項目 詳細仕様・実績値
工事件名 鹿児島3号東西道路シールドトンネル(下り線)新設工事(総延長約2.3km)
発注者/施工者 国土交通省九州地方整備局/大成・大豊特定建設工事共同企業体
適用機械 泥土圧シールドマシン(掘削外径φ11.34m、推進ジャッキ30台)
実証施工区間条件 右曲線半径700m(700mR)、上り勾配1.47%の複合線形区間
実装技術 方向制御AI(最適仮想モデルの自動選定+エッジ逐次学習アルゴリズム)
事前教師データ規模 過去20現場・延べ約33,000mの実施工データ
事前生成モデル数 水平・垂直方向に各400パターン(計800パターン)の仮想モデル
掘進制御実績 目標線形に対する到達誤差3mm以内(水平・垂直方向ともに高精度追従)
学習更新サイクル セグメント1リング(約1.5m掘進)ごとに精度評価およびモデルの再学習を実行

実証が行われた区間は、半径700mの右カーブと1.47%の上り勾配が連続する難度の高い線形条件でした。泥土圧シールドマシン(外径11.34m)に搭載された方向制御AIは、機械に作用する複雑な地盤反力や推力バランスをリアルタイムで解析し、推進ジャッキの出力を自動制御することで、目標座標からのズレをわずか3mm以内に抑え込みました。

熟練オペレーターの「暗黙知」に依存してきたシールド掘進の課題

シールド工法は、円筒形のシールドマシンを地中で前進させながら、前面のカッターヘッドで土砂を掘削し、後方でセグメント(覆工部材)をリング状に組み立ててトンネルを構築していく工法です。

機械を計画線形通りに正確に前進させるためには、機体後部に円周状に配置された多数の推進ジャッキ(本現場では30台)にかける圧力や力点位置(推力分布の重心)をミリ単位・キロパスカル単位で微細に調整し続ける必要があります。

従来、この方向制御は熟練オペレーターの長年の「勘と経験」に強く依存していました。掘削対象となる地層は、硬質な粘土層、緩い砂礫層、滞水層など数百メートル進むだけでも激しく変化します。地盤が柔らかければ機体が沈降しやすく、硬い地盤に斜めに侵入すれば機体が意図しない方向へ押し戻されるといった現象が日常的に発生します。

経験の浅いオペレーターが操作した場合、推進ジャッキの出力配分にわずかな狂いが生じるだけで、計画線形からの逸脱(蛇行)を招きます。最悪の場合には、過剰な偏荷重によって組み立て直後のセグメントにクラックや破損が生じ、漏水事故や周辺地盤の沈下といった重大な施工トラブルに直結するリスクを抱えていました。

さらに、建設業界全体で進む熟練技術者の高齢化と若年入職者の減少は、こうした高度技能の承継を極めて困難にしており、操縦技術の平準化と自動運転化は業界全体の悲願となっていました。

参考記事: 清水建設ら5社、トンネル自動吹付けで切羽作業ゼロと時間5%短縮を実証


エイシングの独自エッジAI「AiirMST®」が実現した技術的ブレークスルー

今回の自動運転実証を成功に導いた中核技術が、株式会社エイシングが開発した機械制御向けAIアルゴリズム「AiirMST®(エアー・エムエスティ)」です。一般的なクラウド型ディープラーニングとは根本的に異なるアプローチにより、地下施工特有の制約を克服しました。

通信が途絶する地下空間で機能する「エッジ逐次学習」

一般的なディープラーニング技術は、膨大なデータをクラウドサーバーに集約し、高性能GPUを用いて時間をかけて学習・推論を行います。しかし、数百メートルから数キロメートルに及ぶ大深度地下トンネルの先端部は、外部との広帯域通信が制限される過酷な環境です。また、掘進中のシールドマシンは秒単位で地盤反力が変化するため、クラウドとの往復通信によるタイムラグ(遅延)は許容されません。

「AiirMST®」は、限られた計算リソースしかない現場内のエッジコンピューター上で、リアルタイムに動作する超軽量・高精度な機械学習アルゴリズムです。最大の特長は、あらかじめ用意された固定モデルを実行するだけでなく、「現場で取得したデータをその場で即座に追加学習し、モデル自身を書き換えて進化し続ける点」にあります。

【エッジAIによる自律掘進制御の学習ループ】

 ┌────────────────────────────────────────────────────────┐
 │ 1. 推進ジャッキ制御(リアルタイム)                   │
 │    AIが最適な力点位置・30台のジャッキ推力配分を決定      │
 └───────────────────────────┬────────────────────────────┘
                             │
                             ▼
 ┌────────────────────────────────────────────────────────┐
 │ 2. 挙動センシング・出来形検測                          │
 │    地盤反力、機体姿勢(ピッチング・ローリング・偏角)、 │
 │    セグメントへの作用応力をリアルタイム取得            │
 └───────────────────────────┬────────────────────────────┘
                             │
                             ▼
 ┌────────────────────────────────────────────────────────┐
 │ 3. エッジ逐次学習(1リングごと)                      │
 │    計画線形と実測到達座標(誤差3mm以内)を自動評価       │
 │    「AiirMST®」が現場適応モデルを即時アップデート      │
 └────────────────────────────────────────────────────────┘

シールドマシンは地盤の硬軟だけでなく、カッタービットの摩耗やシールドジャッキの個体差、油圧バルブの経年劣化によっても日々の挙動特性が微妙に変化します。本システムは、セグメント1リングの掘進が完了するごとに、そのリングで得られた実際の機械挙動データを即座に再学習します。これにより、地層の変化や機械のコンディション変化に追従し、掘削が進むほど現場への適合度を高めていく自律適応を実現しました。

過去20現場・3.3万mの知見を基盤にした「多様化仮想モデル」の自動選定

機械制御AIの開発において最大の障壁となるのが「事前の学習データ不足」です。シールド工事は一品生産であり、過去の同一現場データというものは存在しません。限られた実績データだけでAIを訓練すると、予期せぬ地盤変化に直面した際に過学習を起こし、誤った推力制御を下す危険性がありました。

大成建設とエイシングは、この課題を打破するために「多様化仮想モデル技術」を開発しました。

【多様化仮想モデル選定と現場制御のフロー】

 [過去20現場・約33,000mの実施工ビッグデータ]
                     │
                     ▼
 [データ拡張・シミュレーション解析]
                     │
                     ▼
 [水平400 × 垂直400 = 計800パターンの仮想モデル群を生成]
                     │
                     ▼
 [現場運用:地盤・姿勢データから最適な仮想モデルを自動選定]
                     │
                     ▼
 [「AiirMST®」による現場エッジ逐次学習でさらにチューニング]

大成建設が過去に手掛けた20現場・延べ約33,000mに及ぶ膨大なシールド掘進データをベースに、シールドマシンの口径、ジャッキ配置、地盤定数などのパラメータを変化させたシミュレーションを実施。水平方向・垂直方向にそれぞれ400パターン、計800パターンの「多様化仮想モデル」を事前構築しました。

現場運用時には、AIが現在の掘進挙動に最も近似した仮想モデルを瞬時に自動選定し、それをベースに「AiirMST®」が当日のリアルタイムデータで逐次チューニングを施します。この二段階アプローチによって、実績データが少ない未知の地層条件であっても、破綻することのない安定した自動運転制御が可能となりました。

参考記事: 大成建設ら、最大100mの管路点検をドローンで非立ち入り3D化


建設サプライチェーン各層に及ぼす波及効果

大断面シールドマシンにおける自動運転技術の確立は、施工品質の向上にとどまらず、元請けゼネコンの事業体制、建機メーカーのビジネスモデル、現場技能者の働き方に至るまで多面的なインパクトをもたらします。

元請けゼネコン:施工品質の平準化と暗黙知のデジタル資産化

総合建設会社(元請け)にとって、トンネル工事における品質のバラツキ抑制とリスク低減は経営上の最重要課題です。

シールド工事では、熟練オペレーターの体調や集中力、あるいは担当者のスキル差によって線形精度や掘進速度に差異が生じることが避けられませんでした。自動運転AIの導入により、どの現場・どのシフトにおいても「到達誤差3mm以内」という極めて高い水準で施工精度が平準化されます。

さらに重要な点は、これまで特定の熟練技術者の頭の中にしか存在しなかった「地盤と機体挙動の相関関係」「推力配分の黄金律」といった暗黙知が、AIモデルという再現可能な「デジタル資産」へと形式知化されたことです。これにより、難工事の受注競争における技術提案力(総合評価方式での加点)が飛躍的に強化されるとともに、海外プロジェクトなどの不慣れな環境下でも国内同等の高品質な施工管理を展開できる基盤が整います。

建機メーカー・レンタル業者:ハード単体売りから「エッジAI制御統合モデル」への転換

シールドマシンメーカーや建機レンタル企業にとっても、競争のルールが大きく変化します。

従来のシールドマシン製造は、カッターヘッドの切削力や油圧ジャッキの最大推力、機体剛性といった「ハードウェア性能」が競合優位性の中心でした。しかし、本技術の実証成功は、機械単体のハードウェアよりも「地盤変化に適応して最適推力を自律計算する制御ソフトウェア」が工事の成否を分ける時代に入ったことを示しています。

今後は、建機メーカーが自社製マシンにエッジAI制御ユニットを標準搭載してサブスクリプション型で提供する動きや、レンタル企業が既存の泥土圧シールド・泥水シールドに対して後付け可能な「自動運転レトロフィットキット」を開発・供給する高付加価値ビジネスモデルへの転換が加速します。

技能労働者・オペレーター:過酷な操作監視からの解放と「複数機管制」への進化

シールドマシンの運転席は、24時間連続稼働の中で微小な計器類の数値を注視し続け、わずかな線形ズレにも即応しなければならない精神的ストレスの極めて高い職場でした。

自動運転AIの実装により、オペレーターの主たる役割は「秒単位でのジャッキ圧力の手動調整」という過酷な身体操作から、「AIが下した推力判断のモニタリングと非常時の介入」という上位の統括業務へと移行します。

【シールドオペレーターの業務構造転換】

 [従来型オペレーション]
 ・狭小な運転席での長時間拘束
 ・数十系統の圧力計・姿勢計を目視監視
 ・手動レバー・バルブによる推力配分調整
 ・1現場に熟練工が常時張り付き

          ▼  AI自動運転化による転換

 [次世代型オペレーション]
 ・地上管制室や遠隔オフィスからの遠隔監視
 ・AIによる推力・線形制御の自動化
 ・異常兆候の早期検知と高度な状況判断に特化
 ・1人の統括技術者が複数現場(複数機)を同時管制

熟練技術者の身体的負担が軽減されることで高齢技術者の就業可能期間が延びるだけでなく、操作手順が可視化されることで若手技術者が短期間で高度な管理スキルを習得可能になります。将来的な「地上遠隔管制センターからの複数シールド機同時モニタリング」への道筋が拓かれ、深刻化する担い手不足に対する抜本的な解となります。

参考記事: 清水建設、55歳以上37%の建設現場へ人型ロボ協調基盤を提唱


ConShiftの視点|「非可視領域の暗黙知」をエッジAIが解体する構造転換

大成建設とエイシングの取り組みは、建設DXのフロンティアが「地上の可視化」から「地下の自律制御」へと完全にシフトしたことを象徴しています。

地下工事における「非可視性」の壁を打ち破るエッジ適応力

地上建築や一般的な土工における自動化は、GNSS(衛星測位)やLiDAR(光検出と測距)、高解像度カメラによる「周囲環境の直接センシング」を前提として発展してきました。しかし、厚い土被りの下を進むシールドトンネル工事は、GNSSの電波が一切届かず、切羽の前面を目視で確認することもできない「極限の非可視環境」です。

目に見えない地盤の中で、機械が今どのような応力を受け、どちらへ曲がろうとしているかを把握する手段は、機体に配置された油圧センサーやジャイロコンパス、ストローク計のデータしかありません。この「わずかな間接データから地下の挙動を推論し、即座に制御へフィードバックする」作業こそが、これまで熟練オペレーターの属人性に頼らざるを得なかった根本原因でした。

本実証の真の価値は、この地下特有の不確実性を、クラウドに頼らない現場完結型エッジAI「AiirMST®」の逐次学習によって解き明かした点にあります。事前に何十万通りもの環境をシミュレーションした仮想モデルを持たせ、現場で1リング掘るごとに実測データでモデルを微修正していくアプローチは、未知の環境に適応しなければならないすべてのフィジカルAI(実世界AI)にとっての理想的なアーキテクチャと言えます。

「方向制御」から「トンネル構築全プロセスの完全自律化」へのロードマップ

シールド工事の工程は、今回自動化された「方向制御(ジャッキ推力配分)」だけにとどまりません。切羽の崩壊を防ぐ「泥土圧・泥水圧の管理」、掘削土砂を安全に排出する「スクリューコンベヤ排土量制御」、セグメント背面の間隙を埋める「裏込め注入圧力制御」、そして「セグメント自動組立(エレクター操作)」など、高度に連動する複数のサブシステムで構成されています。

【シールドトンネル完全無人化施工への発展ステップ】

 [ステップ1:単一工程の自動化] ← 今回達成(2026年)
  ・推力重心・力点位置の自動調整
  ・方向制御AIによる線形追従(到達誤差3mm)
  ・1リングごとのエッジ逐次学習
            │
            ▼
 [ステップ2:地下掘削サブシステムの統合制御]
  ・方向制御 + 切羽圧制御 + 排土量制御のリアルタイム連動
  ・地盤変状・地表面沈下を未然に防ぐ統合最適化
  ・裏込め注入の自動充填制御
            │
            ▼
 [ステップ3:完全自律型シールド施工プラットフォーム]
  ・AIによるセグメント自動把持・組立ロボットとの完全同期
  ・地上遠隔管制センターからの完全無人オペレーション
  ・複数インフラ工事の自律協調施工

大成建設が構想するように、方向制御AIの成功はトンネル自律施工の第一歩に過ぎません。今後は、切羽圧や排土量の制御データが方向制御AIとリアルタイムに相互作用し、掘削から覆工組立、裏込め注入までの一連のサイクルが単一の自律プラットフォームとして統合されていくことになります。

この自律化プロセスが完成したとき、シールド工事は「作業員が地下に潜って行う土木工事」から、「地上のオペレーションルームからソフトウェアを管制する高度な地下インダストリアルプロセス」へと産業構造そのものを転換させることになります。

参考記事: 国土交通白書、民間AI投資は米国の250分の1|現場導入1割の打開策


まとめ|明日から現場と経営が意識すべき3つのアクション

シールドマシンの自動運転化という技術的マイルストーンを前に、建設企業の経営層および現場リーダーが直ちに着手すべき実務的なアクションを整理します。

  1. 自社が抱える「属人的な機械操作・熟練判断」のプロセスを棚卸しする
    自社が施工する工種(トンネル、推進、基礎杭、造成等)において、特定のベテラン技術者の勘に頼っている操作や判断基準を洗い出します。どのパラメータ(圧力、トルク、速度、振動など)をセンシングすればデータ化できるかを整理し、AIによる自動制御やガイダンス化の優先順位を策定します。
  2. 「クラウド前提」から「現場エッジ処理」を見据えたデータ収集基盤を設計する
    地下工事や山間部など、通信環境が不安定な現場を想定し、通信が遮断されても現場単独で推論・学習・制御が完結するエッジコンピューティング環境の導入を検討します。日々の施工データをただ蓄積するだけでなく、リアルタイム制御のフィードバックループに組み込めるデータパイプラインを構築します。
  3. 要素技術を持つディープテック系スタートアップとの共創アライアンスを加速する
    すべてを自社単独で開発する自前主義を脱し、エイシングのような高度な制御アルゴリズムやエッジAI技術を有するテック企業との共同開発・共同実証に踏み切ります。自社が持つ現場施工ビッグデータと外部のアルゴリズムを掛け合わせるオープンイノベーション体制を経営戦略として確立します。

出典: PR TIMES
出典: 大成建設株式会社 プレスリリース
出典: BUILT

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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