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法規制・制度 2026年9月9日

建設DX研究所、中小99.5%向けに4提言公表|施工崩壊を回避

建設DX研究所、中小99.5%向けに4提言公表|施工崩壊を回避

株式会社アンドパッドなどの建設テック企業が参画する任意団体「建設DX研究所」は、中小建設事業者の人手不足に伴う施工体制崩壊を防ぐため、規制緩和や行政手続の電子化を柱とする4つの政策提言を公表した。提言では、国内建設事業者の99.5%を占める中小企業を対象に、労働安全衛生法上の遠隔巡視基準や建設業法における技術者の兼任要件の緩和を求めている。

中小建設業を襲う「X-day」の危機と政策提言の経緯

国内の社会インフラの維持管理や災害復旧は、地域に根差した中小建設事業者が現場の最前線を担うことで成立している。しかし、構造的な少子高齢化と熟練技術者の大量離職により、地域の施工能力が臨界点を超えて失われる「X-day」の懸念が高まっている。

建設業就業者数の減少と高齢化が招く維持管理の限界

国土交通省の公表データによると、建設業就業者数はピーク時(1997年)の約685万人から、近年は約480万〜500万人規模へと200万人以上減少した。就業者全体の年齢構成を見ると、55歳以上が35.5%を占める一方で、29歳以下の若年層は12.0%にとどまり、60歳以上の技能者が全体の4分の1を超えるなど、産業全体の高齢化が急速に進展している。

建設投資額は、ピーク期の1992年度(約84兆円)から一時低迷したものの、直近では名目60兆〜75兆円超規模と底堅い需要が継続している。しかし、現場では人件費や資材価格の高騰に伴う工事費増大、入札不調、さらには工事の中断が顕在化している。加えて、2024年4月からは労働基準法に基づく時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間など)が適用され、従来の長時間労働に依存した現場運営は法的に不可能となった。

限られた人員でインフラの老朽化対策や日常点検、突発的な災害対応をこなさなければならない地域ほど、現場の負担は過酷さを増している。

参考記事: 建設業の2024年問題とは?時間外労働上限規制のポイントと現場が取るべき対策を徹底解説

建設DX研究所の発足から政策提言に至るまでの歩み

こうした構造的危機に対し、現場への単なるソフトウェア導入にとどまらず、法規制の緩和や制度改革を通じて業界全体の生産性を底上げしようとする動きが本格化している。2021年5月に発足した勉強会を前身とし、2023年1月に建設テック企業が結集して設立された「建設DX研究所」は、行政や国会議員への提言活動を継続してきた。

同研究所の政策提言活動の経緯は以下の通りである。

年月 出来事・主な動向
2021年5月 建設DX研究所の前身となる活動が発足。情報発信や勉強会を開始
2023年1月 建設テック企業6社により任意団体「建設DX研究所」が正式設立
2024年4月 建設業への時間外労働上限規制(年360時間等)の適用開始
2024年5月 官邸フォーラムにて建設DX研究所代表が中小DXの政策提言を発表
2024年6月 改正建設業法が成立。技術者専任要件見直しの附帯決議が採択
2024年6月 厚生労働省が通達を発出。ウェアラブルカメラ等を用いた遠隔巡視を容認
2024年7月 記者向け報告会にて行政書類の統一化や専任規制緩和の要望を公表
2025年3月 AI管理や建機自動化を手掛ける企業が追加参画し11社体制へ拡充
2026年9月 中小建設業の崩壊回避に向けた4つの重点政策提言を公表

2024年6月には、特定元方事業者の作業場所巡視に関して厚生労働省が通達を出し、デジタル技術を活用した遠隔巡視が条件付きで認められるなど、制度面の変革が徐々に進んできた。しかし、依然として残るアナログ規制や自治体ごとのローカルルールが、中小事業者のデジタルシフトを妨げる大きな障壁となっている。

構造改革を促す4つの政策提言の骨子

建設DX研究所が今回公表した提言は、建設DXを単なる個社ごとの業務効率化手段ではなく、「社会資本そのものを存続させる不可欠な基盤」と定義し直している。

提言の全体像は、以下の4つの領域で構成されている。

領域 提言の重点テーマ 主な具体策・要求項目
1. 現場DXの加速 アナログ規制撤廃と中小支援 遠隔巡視基準の柔軟化、現場技術者の兼任要件緩和、助成実証制度の創設
2. 行政手続DXの加速 業務の標準化とオープンデータ化 自治体提出書類の全国統一化・電子化、建築確認データの機械判読化
3. 持続可能な建設業の推進 環境対策とAI開発基盤の整備 BIM活用、GHG排出量削減、官民データ連携基盤によるAI学習環境整備
4. 災害対応・インフラ維持管理DX 平時技術評価と予防保全への転換 新技術の平時総合評価・予算化、ドローンやIoTを活用した予防保全型管理

4つの重点提言に見る規制緩和とデータ連携の具体策

公表された政策提言は、建設現場のオペレーションから行政窓口、中長期的なデータ基盤の構築までを射程に収めている。各領域における具体的な要求内容は以下の通りである。

第1提言:現場DXを阻むアナログ規制の撤廃と助成制度の創設

中小建設事業者の現場において、生産性向上を阻む要因となってきたのが「対面・目視・常駐」を前提とする旧来の法規制である。現場DXの加速に向けては、遠隔技術の活用を前提とした法運用の見直しが求められている。

労働安全衛生法における遠隔巡視の柔軟化

労働安全衛生法第30条第1項第3号および労働安全衛生規則第637条は、特定元方事業者に対して毎作業日1回以上の巡視を義務付けている。

2024年6月の通達により、ウェアラブルカメラ等を活用した遠隔巡視が容認されたものの、「週1回以上の現場目視巡視」を義務付けるなど、画一的な制限が残されている。提言では、現場の危険度や通信環境、導入技術の性能に応じ、現場の実情に即した柔軟な基準緩和を推進すべきとしている。

建設業法における現場専任技術者の兼任要件緩和

建設業法第26条第3項および政令に基づき、請負代金4,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上の工事には、主任技術者または監理技術者の現場専任が義務付けられている。

監理技術者の補佐を配置する特例や遠隔通信機器を活用した兼任措置が講じられつつあるが、提言では新技術の活用状況を踏まえ、技術者が兼任できる対象工事の条件をさらに拡大することを求めている。これにより、移動時間を削減し、1人の熟練技術者が複数の施工現場を安全かつ効率的に統括できる体制を目指す。

また、資金力に乏しい中小建設事業者が新技術を導入できるよう、実証事業や設備投資を支援する助成制度の新設を求めたほか、公共工事の総合評価方式において、工期短縮や将来の維持管理コスト低減といった新技術の多面的な価値を評価項目に組み込むことを提起している。

参考記事: 専任技術者とは?主任技術者・監理技術者との違いや要件・兼務特例まで解説

第2提言:行政手続の全国統一化と建築確認データのオープン化

中小事業者の間接業務を圧迫している要因が、地方自治体ごとに様式や提出手順が異なる建設関連の行政書類である。

提言では、地方自治体が取り扱う各種申請書類や届出様式の全国統一化と簡素化を強く要求している。窓口への紙書類提出や対面審査を廃止し、主要な建設行政手続の電子化を全国規模で推進することが明記された。

さらに、建築確認申請をはじめとする行政保有データについて、実務上の利用ルールを明確にした上で、機械判読が可能な形式(XMLやJSON、オープンなCAD・BIMフォーマットなど)でのWeb公開を求めている。データが標準化・オープン化されることで、民間テック企業による業務支援ソフトウェアの開発や、AIによる確認業務の自動化が可能となる。

参考記事: BIM確認申請とは?2026年運用の図面審査と2029年モデル審査のロードマップを解説

第3提言:AI開発を加速する官民データ連携基盤とBIMの活用

建設業の生産性を抜本的に高める技術として、生成AIや画像認識AIの実装が期待されている。しかし、質の高い建設特化型AIを開発・運用するためには、設計図書、施工計画、安全点検記録などの膨大な学習データが欠かせない。

提言では、政府が掲げる「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」の実現に向け、直轄工事等のモデル事業を通じて施工現場のデータを収集し、産業全体で安全に共有・連携できるデータ基盤の整備を求めた。

あわせて、建物のライフサイクル全体でデータを一元管理するBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用拡大や、温室効果ガス(GHG)排出量の算定・削減に向けたデジタル基盤の構築を一体的に推進すべきとしている。

第4提言:インフラ維持管理の予防保全化と平時技術評価の制度化

高度経済成長期に集中的に整備された道路、橋梁、トンネル、下水道などの社会資本は、建設後50年以上を経過する施設が急増しており、維持管理需要が急拡大している。しかし、点検を担う自治体職員や地域土木業者の技術者は不足しており、従来の人力に頼った事後保全では維持できない。

提言では、ドローン、点検ロボット、AI画像解析、IoTセンサーなどを前提とした点検体制への転換を要求している。特に下水道などの閉鎖空間や橋梁の裏面といった危険・困難箇所に対する新技術の導入を促す。

また、広域的な点検データを一元的に蓄積・分析し、重大な損傷が発生する前に手当てを行う「予防保全型管理」への移行を強調した。災害発生時にドローンや自動建機を即座に稼働させるためには、平時の公共工事においてこれらの技術が適正に評価され、発注予算が確保されていなければならないとし、発注者向けの技術カタログの高度化を訴えている。

参考記事: インフラ長寿命化計画とは?予防保全への転換と実務担当者が押さえるべき計画策定のポイント

建設産業の各プレイヤーに押し寄せる構造変化と実務への影響

建設DX研究所の提言が目指す規制緩和とデジタルシフトは、建設産業のステークホルダーの実務に直接的な影響を与える。

中小工務店・地場ビルダー:ローカルルールの撤廃による事務負担軽減と受注維持

国内建設事業者の99.5%を占める中小企業において、限られたバックオフィス人員が行政手続きや安全書類の作成に追われる実態は深刻である。隣接する自治体ごとに異なる添付書類や独自様式(ローカルルール)が存在することは、事務負担を増大させ、時間外労働の主な原因となってきた。

提言の通り行政書類が統一化・電子化されれば、重複入力や窓口への移動時間が大幅に削減される。また、新技術導入に対する助成制度が拡充されれば、これまでコスト面からICT施工や遠隔カメラの導入を躊躇していた中小事業者でもデジタル化への初期投資が可能となり、施工能力の維持と若手人材の確保につながる。

現場監督・施工管理者:兼任要件の緩和と遠隔巡視による移動・拘束時間の削減

現場の最前線で働く施工管理者にとって、毎日の現場巡視や常駐義務は移動の負担を強い、柔軟な働き方を阻む主因であった。特に広範囲に現場が分散する地方部では、1日に複数の現場を巡回するだけで労働時間の多くが消費される。

労働安全衛生法に基づく遠隔巡視の要件がさらに緩和され、ウェアラブルカメラや定点カメラを活用した遠隔確認が全面的に認められれば、移動時間が劇的に圧縮される。また、建設業法の現場技術者兼任要件が緩和されることで、1人の優秀な監理技術者・主任技術者がデジタルツールを介して複数の現場を統括できるようになり、技術者1人あたりの管理可能工事件数が拡大する。

行政・規制当局:アナログ規制の抜本的見直しとデータ駆動型インフラ管理への移行

発注者である自治体や法規制を所管する行政機関は、前例踏襲型のアナログな管理手法からの脱却を迫られている。書類提出の電子化やローカルルールの撤廃は、行政組織側の事務処理効率化にも直結する。

インフラ維持管理においては、全国の市区町村で技術職員が著しく不足している。例えば、北海道士幌町のように就業者1人当たりの担当道路延長が物理的限界に達している地域では、従来の全量目視点検は持続不能である。行政側には、ドローンやIoTを活用した民間企業の点検データを積極的に受け入れ、優先順位に基づいた「予防保全型管理」や施設の集約・撤去(賢い縮小)を判断するマネジメント能力が求められる。

参考記事: 士幌町は1人で道路4200km維持|群マネ難航で迫る賢い縮小と事業転換

ConShiftの視点:制度改革とオープンデータが切り開く「持続可能な建設エコシステム」

今回の提言が建設業界に投げかけている本質的な論点は、「ツールの導入競争」から「業界の社会インフラ化」へのフェーズ転換である。

これまで多くの企業で進められてきた建設DXは、施工管理アプリの導入やチャットツールの活用といった、個別企業内の業務効率化(部分最適)にとどまっていた。しかし、どれほど現場がデジタル化されても、法規制が「毎日1回の現場目視巡視」や「技術者の現場常駐」を義務付け、行政が「紙書類の窓口持参」を求める限り、生産性の向上には構造的な上限が存在する。

建設DX研究所の提言が極めて実践的なのは、労働安全衛生法や建設業法といった法制度の運用緩和と、自治体書類の標準化という「制度的ボトルネック」の解消を前面に押し出している点にある。

今後は、個社の努力だけで人手不足を解決する時代は終わる。AI技術の急速な進化を現場実務に取り込むためにも、官民が連携して施工データや建築確認データを機械判読可能な形で共有する「データエコシステム」の構築が不可欠となる。アナログ規制の撤廃とデータのオープン化が連動して進むことで初めて、中小建設事業者は過剰な事務拘束から解放され、本来の強みである現場施工や地域防衛に注力できるようになる。

まとめ:政策転換を見据えて明日から取り組むべき実務アクション

法改正や制度見直しの議論が進む中、ゼネコンや工務店の経営層・現場リーダーは、規制緩和を待つだけでなく自社の業務プロセスを先行して適応させていく必要がある。明日から意識すべき実務対応は以下の3点である。

  1. 自社の専任・巡視体制と遠隔ツールの適合性検証

自社が管理する現場において、現行の法令・通達下で遠隔巡視や兼任特例を適用できる現場がないか洗い出しを行う。ウェアラブルカメラやクラウド録画カメラを試験導入し、目視巡視から遠隔巡視へ移行するための運用手順を確立しておく。

  1. 自治体手続き・電子申請動向の把握と社内業務プロセスの標準化

施工エリア内の自治体が導入している電子納品やオンライン申請の動向を整理する。社内の安全書類や施工管理データを紙ベースからデジタル形式へ集約し、行政手続きの標準化・電子化が実現した際に即座に対応できる体制を整える。

  1. 予防保全型インフラ管理・維持修繕技術の情報収集と試行

地方自治体によるインフラ管理の発注は、事後保全から新技術を用いた予防保全や包括的民間委託へとシフトしつつある。ドローン点検やセンサー技術、AI画像解析など、自社が関わる工種で活用可能な新技術の情報を収集し、直轄工事や民間案件で小規模な試行を重ねる。


出典: BUILT
出典: 株式会社アンドパッド
出典: 株式会社アンドパッド
出典: 建設DX研究所 note

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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