鹿島建設株式会社は2026年9月17日、シンガポール政府の産業開発機関であるJTCコーポレーションと、同国の建設現場における自動化施工システム「A⁴CSEL®(クワッドアクセル)」の導入に向けた共同研究を開始したと発表した。
シンガポール西部のジュロン・イノベーション・ディストリクト内にある約10,000㎡の実証施設「Bulim Autonomous Yard」を活用し、自動振動ローラ2台を連携させた造成工事の施工検証を推進する。
ジュロン実証拠点におけるA⁴CSEL初弾検証とシンガポール造成工事の背景
今回の共同研究は、鹿島建設が国内のダム工事などで開発・実用化を進めてきた自動化施工システム「A⁴CSEL」にとって初の日本国外への展開となる。
シンガポールの建設部門はGDPの3.7%、国内総雇用の12.1%を占める基幹産業である一方、現場作業における外国人労働者への依存度が高く、省人化と生産性の引き上げが政策課題となってきた。加えて、国土の多くが低地に位置する同国では、海面上昇への適応策として沿岸域の嵩上げや大規模な埋め立て造成工事が長期的に計画されている。広大な面積の土工を限られた人員で安全に進める手段として、自動運転重機による施工技術の確立が求められていた。
鹿島建設とシンガポール政府機関は、10年以上にわたり現地での研究開発体制を構築してきた経緯がある。
| 年月 | 取り組み・マイルストーン | 内容と位置づけ |
|---|---|---|
| 2013年9月 | KaTRIS開設 | 鹿島がシンガポールに技術研究所オフィスを開設し、共同研究拠点を整備。 |
| 2015年 | 国内でA⁴CSEL初導入 | 福岡県の五ケ山ダムで自動振動ローラの実施工適用を開始。 |
| 2019年 | JTCと初回MOU締結 | 建設生産性向上や持続可能性に関する共同研究開発の覚書を締結。 |
| 2023年8月 | The GEAR開設 | チャンギに地域統括本部兼研究開発ハブを開設(投資額1億シンガポールドル)。 |
| 2026年9月上旬 | The GEAR by Kajima設立 | 技術サービスやスタートアップ育成を担う現地子会社を設立。 |
| 2026年9月17日 | A⁴CSEL共同研究の発表 | JTCとのMOUに基づき、海外初となるA⁴CSELの導入実証を開始。 |
実証実験の推進体制と機材のローカライズ
実証実験の舞台となる「Bulim Autonomous Yard」は、新技術を実際のインフラプロジェクトへ導入する前に、管理された環境下で安全性と精度を検証するためにJTCが整備した約1ヘクタールの実証専用フィールドである。
第一弾の検証では、造成現場での転圧作業を想定し、2台の自動振動ローラを協調走行させる。実証における役割分担として、鹿島建設が自動制御アルゴリズムと管制システムを提供する。重機の自動化改造(レトロフィット)には現地代理店のトラクターズ・シンガポール(Tractors Singapore)が参画し、現場での実際のオペレーションは鹿島から操作訓練を受けた現地建設会社KTCの社員が担当する。
国内の実績において、A⁴CSELは秋田県の成瀬ダム堤体打設工事などで高度な運用データを蓄積してきた。同現場では、施工ヤードから約400km離れた神奈川県西湘実験フィールドの管制室から、わずか3人のオペレーターで14台の自動化重機を遠隔管制し、最長70時間の連続稼働を達成している。今回のシンガポール実証では、この管制技術を現地の通信環境や作業プロトコルへ適応させ、熟練オペレーターの必要人数を従来の半分に削減するとともに、作業員を重機の稼働エリアから遠ざける安全運用の確立を目指す。
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主要プレイヤーに及ぶ波及効果
日本のスーパーゼネコンが開発した自動化施工技術の海外政府機関との連携は、建設生産プロセスに関わる各事業者のビジネスモデルに影響を与える。
ゼネコン(元請け):施工技術のライセンス輸出と海外JVでの競争力向上
元請けゼネコンにとって、これまで国内の直轄ダムや大規模土工現場に限定されていた自律施工技術が、海外インフラ市場への輸出モデルとして成立する実例となった。自社が元請けとして受注する工事だけでなく、現地の建設会社(本件におけるKTCなど)に対して自動化システムや運行管理プラットフォームをライセンス供与する、新たなソフトウェア・エンジニアリング収益の確立につながる。
また、東南アジアの大規模土木工事における国際入札では、現地作業員の労務単価上昇や安全規制の強化が採算性を左右する要因となっている。熟練オペレーター数を半減させつつ、夜間や悪天候下でも連続稼働が可能な自動化施工パッケージを保有していることは、現地JV(共同企業体)組成時の技術提案における参入障壁として機能する。
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発注者・デベロッパー:工期遅延リスクの抑制と安全基準の平準化
シンガポール政府機関のJTCをはじめとする発注者は、インフラ整備における人手不足と労災事故の抑制を同時に達成する手段として自動化施工を位置づけている。低平地での大規模造成工事では、締固め回数や転圧速度のばらつきが不同沈下などの施工不良につながるリスクを抱える。
A⁴CSELのような自動化システムが導入されることで、機械が計画データに沿って均一な施工履歴を自動記録し、面的品質管理が担保される。手戻り工事の発生を抑制し、長期間にわたる沿岸造成プロジェクトの工期遵守とライフサイクルコストの低減が図られる。
建機メーカー・代理店:レトロフィットキットの標準化と通信規格への対応
重機メーカーおよび現地の建機ディーラーにとっては、新車の自動運転建機を販売するだけでなく、稼働中の既存重機へセンサーやアクチュエーターを後付けする「レトロフィット需要」が具体化した。本件でトラクターズ・シンガポールが改造を担っているように、現地のディーラー網が自動化インターフェースの実装に対応できなければ、グローバルな建機サプライチェーンから取り残される可能性がある。
自動運転重機と管制システム間を結ぶ通信プロトコルや、障害物検知センサーのインターフェース仕様について、国境を越えたオープン規格化の動きが加速する。
ConShiftの視点:単一現場の技術実証から「海外調達・現地運用」のエコシステムへ
本提携における本質的な転換点は、日本の閉鎖的なダムサイトで磨かれたA⁴CSELが、「海外の既存建機をレトロフィットし、現地の作業員が管制する」という水平分業型の運用スキームに踏み込んだ点にある。
成瀬ダムで実証された「400km遠隔・3人で14台管制」という運用は、高品質な自社通信網と自社保有の専用建機、そして鹿島の熟練技術者が揃っていたからこそ成立した垂直統合型のモデルであった。しかし、海外市場で同システムを普及させるためには、現地で流通している汎用重機に自動化キットを組み込み、現地の施工会社が日常の運行管理を担える再現性が不可欠となる。
今回、鹿島が機材改造をトラクターズ・シンガポールに、実施工の管制をKTCに委ねた体制は、自動化施工技術を「ゼネコン固有の施工手段」から「海外市場で流通可能な施工OS」へと昇華させる試みである。国内で培われた施工DX技術がガラパゴス化を脱し、海外の法規制や労働環境に適応したグローバルスタンダードを確立できるかどうかの試金石となる。
明日から自社の現場運用へ取り入れるべき視点
自動化施工の海外実装という動きに対し、国内の現場管理者が実務に反映すべきアクションは以下の通りである。
- 施工データの3次元化と面管理への移行
自動化施工の前提条件は、設計データから施工履歴までを3次元座標で統一することにある。日々の転圧回数や出来形管理において、従来の抜き取り検査からICT建機ログを活用した面的な施工管理への移行を進める。 - 通信環境と後付け自動化機器の仕様把握
遠隔管制や自律施工の成否は現場内の通信遅延とセンサーの互換性に依存する。自社現場で利用可能なローカル5GやWi-Fi環境の整備状況を把握し、既存建機へ追加搭載できるガイダンス・マシンコントロール機器の選定基準を明確にする。 - オペレーター業務の再定義とマルチタスク化の準備
自動化が進むにつれ、オペレーターの役割は「1台の重機を運転する技能者」から「複数台の稼働状況を監視・指示する運行管理者」へと変化する。現場の技能者に対し、施工計画データの入力や安全監視システムの操作教育を早期に開始する。
出典: 注目株の株式新聞Web | ニュース・適正株価・銘柄情報
出典: 鹿島建設株式会社 プレスリリース
出典: JTC Corporation
出典: The Straits Times
出典: CIO Online
