大成建設は2026年9月30日、セメントを使用せず高炉スラグを主原料とする環境配慮コンクリート「T-eConcrete/セメント・ゼロ型」を、国土交通省九州地方整備局が発注した鹿児島東西道路のシールドトンネル工事へ初適用したと発表した。外径11.34mの大断面トンネルにおける延長99m区間にプレキャストインバート部材66基を連続打設・設置し、材料製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を従来比で約70%削減している。
鹿児島東西道路シールドトンネルへの「T-eConcrete/セメント・ゼロ型」導入実態
高い強度と長期耐久性、走行安全性が求められる道路用シールドトンネルにおいて、セメントを完全に排除したコンクリート材料が直轄インフラの本設部材として組み込まれた。今回導入された現場の施工条件および材料仕様の整理は下表の通りである。
| 項目 | 実装内容・仕様 |
|---|---|
| 発注者・工事名 | 国土交通省九州地方整備局「鹿児島東西道路」下り線(田上IC〜甲南IC間) |
| 施工規模 | 外径11.34mシールドトンネルのうち延長99m区間 |
| 適用部材・数量 | トンネル底面に据え付けるプレキャストインバート部材 66基 |
| 主要結合材 | 高炉スラグ微粉末(普通ポルトランドセメント使用量ゼロ) |
| 環境負荷低減効果 | 材料製造時のCO2排出量を約70%削減(本工事累計で約37.7t-CO2削減) |
| 工事上の整合性 | 従来のプレキャスト製作・組立・据付工程および設計基準をそのまま維持 |
産業副産物を主原料とする硬化機構と道路部材への適合
従来のコンクリートは、普通ポルトランドセメントの製造時に石灰石を高温焼成するため、材料1tあたり約770kgのCO2を排出する。「T-eConcrete/セメント・ゼロ型」は、製鉄工程の副産物である高炉スラグ微粉末をアルカリ刺激剤で反応させて硬化させるアルカリ活性材料(AAM)の技術を応用し、セメントを一切使わずに硬化体としての強度を発現させる。
道路シールドトンネルのインバート部は、掘削後のトンネル断面底部を平坦化して道路床版を支え、土水圧に対する逆アーチ構造を形成する重要部材である。本工事では、プレキャスト製品としての製造精度、輸送・吊り上げ時の耐衝撃性、据付後の耐荷重性能において、従来の普通セメントを用いたインバート部材と同等の物性を確保し、既存のクレーン据付手順を改変することなく施工を完了させた。
参考記事: プレキャストコンクリート(PCa)とは?RC・PCとの差異や現場導入のメリットを徹底解説
実構造物適用への技術的布石と公的証明の取得経緯
大成建設は、本件に至るまでに民間工事および自治体インフラでの実証を段階的に積み重ねてきた。
- 過去の実績:海老江ウォーターリンク発注の下水処理場シールドトンネル工事(シールドセグメント)、東京電力パワーグリッド発注の地中送電洞道工事(インバートブロック・歩床ブロック)にて実構造物としての施工性を検証。
- 2026年1月22日:一般財団法人日本建築総合試験所より建設材料技術性能証明(GBRC材料証明第25-02号)を取得。建築基準法上の指定建築材料等に該当しない新材料としての構造性能と品質管理手順を公式に確立。
- 2026年7月8日:同工事(鹿児島東西道路シールド工事)において、機械学習AIを用いたシールドマシン自動運転技術の現場実証を先行して展開。
- 2026年9月25日:ニチアスと共同で、同材料を用いたオフィス用「T-eConフロア」の実装を発表し、土木・建築双方への水平展開体制を構築。
- 2026年9月30日:国土交通省直轄工事の幹線道路シールドトンネル本設部材として「T-eConcrete/セメント・ゼロ型」の初適用を発表。
参考記事: 大成建設、CO2最大110kg固定を3年実証|施工管理が選ぶGX技術
直轄インフラにおける低炭素資材導入を促す政策枠組み
本適用は、単一現場の技術試行にとどまらず、国土交通省が進める公共調達基準の改定に沿った実務である。
- 改正品確法の運用開始(2024年6月施行):公共工事の発注者に対し、経済性に配慮しつつ「脱炭素化への寄与の程度」を総合評価などで評価・選定する責務が規定された。
- 直轄土木工事の脱炭素アクションプラン(2025年4月公表):2030年度を目標に直轄土木工事での低炭素型コンクリート使用を原則化する方針が明記され、2027年度から用途・地域を指定した義務化枠組みの策定が進められている。
- 直轄試行工事の実績データ:国土交通省の公表資料によると、直轄公共工事における低炭素型コンクリート試行は全国51件(約11,000m³)に達しており、そのうち49件が品質管理の安定したプレキャスト製品で占められている。
建設バリューチェーン各層に生じる実務上の影響
直轄国道の大断面トンネルという極めて安全率の要求水準が高い工区でセメントゼロ部材が採用された事実は、調達・積算・施工管理の各フェーズにおいてサプライチェーン各社に直接的な対応を求める。
ゼネコン(元請け):総合評価落札方式における環境技術提案の評価差
直轄土木工事の総合評価落札方式では、施工計画書における脱炭素化技術の配点比率が高まっている。従来のCO2削減提案は、建設機械の電動化や軽油代替燃料の使用といった現場稼働段階(Scope 1)の削減策が中心であった。
本件の実績により、資材製造段階(Scope 3 Category 1)に由来するエンボディドカーボンの削減実績が、直轄道路トンネルの主要構造部材で示された。元請けゼネコンにとっては、従来の設計図書が指定する普通コンクリート仕様に対し、同等以上の力学特性を証明できる代替配合技術と施工実績を提示できるかどうかが、技術提案書での加点格差に直結する。
行政・規制当局:特記仕様書への低炭素資材の指定と積算基準化
国土交通省各地方整備局では、「土木工事共通仕様書」および現場ごとの特記仕様書において、高炉スラグを用いた低炭素資材の利用を認める標準化作業を前倒しで進める必要が生じる。
これまでセメントを使用しない新材料は、JIS規格(JIS A 5308等)の枠外となるため、大臣認定や性能証明の取得、現場ごとの発注者協議に多大な期間を要していた。大断面シールドトンネルのインバートという重要部位で実証データが得られたことで、地方整備局の設計部局は、歩掛や資材単価を標準積算基準へ反映させるための定量的な検証ステップへ移行できる。
参考記事: 国交省が2026年度直轄6件でグリーン鉄試行、公共調達の評価軸激変へ
建材メーカー・サプライヤー:プレキャスト工場における専用ラインと品質トレーサビリティ
二次製品メーカー各社にとって、プレキャスト製品の材料転換は設備の更新を伴う実務課題となる。高炉スラグ微粉末を主体とするコンクリートは、普通ポルトランドセメントと比較して初期強度の発現速度や温度依存性が異なるため、工場の蒸気養生温度管理や型枠脱型強度の管理基準を個別に再設定しなければならない。
また、直轄工事への納入には、産業副産物のロットごとの化学組成データや、材料調達から部材出荷までのCO2排出量算定根拠(第三者認証やEPDなどの環境製品宣言)の提示が求められる。工場内でのサイロ分けや材料配合管理のデジタル化を進めていないサプライヤーは、低炭素指定が組み込まれたプレキャスト案件から排除されるリスクを負う。
ConShiftの視点:資材調達基準における「QCD」から「QCDE」への移行と実務課題
大成建設が鹿児島東西道路で示した成果は、資材調達の判断基準が「品質(Q)・コスト(C)・工程(D)」の3要素から、環境性能(E:Environment)を必須条件に組み込んだ「QCDE」の標準プロセスへ完全にシフトしたことを裏付けている。
今回の施工区間は延長99m、部材数は66基、CO2削減量は約37.7tである。トンネル全延長(下り線2,319m)から見れば部分的な適用にとどまるものの、既存のセグメント組立やインバート据付機械、工期工程を一切変えずに材料の置き換えを成立させた点に実務上の本質がある。工法そのものを変更するGX技術は現場の歩掛を悪化させるが、既存のプレキャスト搬入・据付治具をそのまま転用できる工法であれば、現場管理者のオペレーション負担を増やさずに脱炭素要件を満たせる。
ただし、今後の社会実装に向けた構造的ボトルネックは「高炉スラグの国内供給限界」である。国内鉄鋼業の電炉化移行や高炉の休止が進む中で、原料となる高炉スラグの国内発生量は減少傾向にある。元請けゼネコン各社は、単一の材料技術に依存するのではなく、フライアッシュ(石炭灰)活用型やCO2固定型(炭酸カルシウム混合)など、調達可能な地域資源に応じた複数の配合選択肢をサプライチェーンと連携して確保しておくことが、中期的な入札競争力の生命線となる。
明日から意識すべきこと
公共工事およびインフラ整備に携わる現場担当者・管理部門は、以下の実務対応に着手する必要がある。
- 自社施工工種におけるプレキャスト製品の低炭素仕様への置換可能性の調査
特記仕様書で指定される前に、ボックスカルバート、側溝、擁壁、インバートなど、自社が多用するプレキャスト部材の製造元に対し、高炉スラグ微粉末等を活用した低炭素型製品の供給可否と納期リードタイムをヒアリングする。
- 直轄工事の総合評価落札方式における「資材脱炭素」加点項目の最新動向確認
国土交通省の地方整備局ごとに改定が進む「直轄土木工事の脱炭素アクションプラン」の運用方針を確認し、従来の建機燃料対策だけでなく、主要資材(コンクリート・鋼材)のCO2削減率を算定・提示できる提案体制を積算部門と連携して整備する。
- 材料製造時の排出量データ(CFP)の入手手順と算定根拠の確認
二次製品メーカーから提出されるミルシートや配合報告書に加え、CO2排出量削減証明書や第三者認証の取得状況を事前に確認し、発注者協議および完成検査時に提出できるエビデンス管理フローを定型化する。
出典: 大成建設株式会社



