西松建設は2026年9月29日、北海道新幹線渡島トンネル(台場山)工事において既存のフルオートドリルジャンボに後付けした遠隔装薬装置を現場実証し、切羽天端45度範囲への作業員立ち入りゼロを達成した。本実証では目標とする全孔への爆薬装填を完了させるとともに、親ダイと増しダイの装薬時間を従来比で約10%短縮することに成功した。
渡島トンネル実証における遠隔装薬装置の技術仕様と成果
山岳トンネル工事の発破掘削において、穿孔後の孔に爆薬を装填する「装薬」は、作業員が露出した切羽(掘削最前線)に長時間接近せざるを得ない危険作業とされてきた。今回、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)発注の「北海道新幹線、渡島トンネル(台場山)工事」において、切羽直下に立ち入ることなく装薬作業を完結させる遠隔装薬装置の現場実証が行われた。
既存のフルオートドリルジャンボへの後付け構造と装薬プロセス
本装置の最大の特徴は、現場に配備されている既存のフルオートドリルジャンボへ後付けで搭載できる点にある。専用の大型新規重機を導入することなく、現場の既存設備を活用して遠隔施工環境を構築できる。
遠隔装薬の具体的な運用フローは以下の手順で進行する。
- 安全領域での爆薬セット
作業員は、岩盤崩落の危険が及ばない切羽天端から45度の範囲外(後方)に待機し、装置の装填機へ爆薬を設置する。取り扱う材料は、起爆用の親ダイ(電気雷管と含水爆薬)、誘爆用の増しダイ(含水爆薬)、および込め物である。 - 削孔位置の自動選択とブーム移動
フルオートドリルジャンボの運転席に座るオペレーターが、操作パネル上で穿孔済みの孔位置を選択する。システムが目標座標を認識し、ブームが装薬孔の位置まで自動で移動する。 - 孔内挿入とエア圧送による装填
オペレーターは運転席の高精細映像モニターで孔位置を目視確認しながらドリフタを操作し、遠隔装薬装置の先端を孔内へ挿入する。挿入完了後、圧縮空気(エア圧送)を用いて親ダイ、増しダイ、込め物を孔内奥部へ順次装填する。
現場実証では、この一連の手順を反復することで計画された全孔への装薬を完了させた。切羽直下への立ち入りを完全に排除しただけでなく、親ダイと増しダイの装薬に要する時間を従来の人手作業と比較して1孔当たり約10%短縮できる性能を確認した。
開発タイムラインとTunnel RemOSにおける位置付け
西松建設は、山岳トンネル施工で使用する各種重機の自動化・遠隔操作技術を統合した「山岳トンネル無人化施工システム(Tunnel RemOS:トンネル リモス)」の開発を推進している。今回実証された遠隔装薬装置は、同構想における掘削・装薬工程の中核要素技術である。
| 年月 | 開発・実証マイルストーン | 取り組み内容と達成成果 |
|---|---|---|
| 2026年7月 | 自律走行ホイールローダ発表 | ズリ出し作業で最適走行ルートを自律生成・走行するシステムを開発 |
| 2026年9月8日 | 平塚製作所での遠隔装薬試験 | 約80m離れた場所から仮想切羽への装薬作業を実施し遠隔適用性を検証 |
| 2026年9月29日 | 渡島トンネル(台場山)現場実証 | 実工事の全孔装薬を達成、切羽無人化と装薬時間約10%削減を確認 |
| 2027年度中(計画) | Tunnel RemOS構成技術の実証完了 | 各重機の連携・統合制御を確立し掘削サイクルの完全無人化を検証 |
参考記事: 東急建設、穿孔人員を5人から1人へ削減し切羽ゼロ実現
肌落ち災害防止ガイドラインと制度的背景
山岳トンネル工事の切羽周辺は、地山応力の解放や地質不連続面の影響により、剥離した岩塊が突然落下する「肌落ち(はだおち)」災害のリスクが極めて高い。
厚生労働省の公表データによると、山岳トンネル工事で発生する肌落ち災害は、被災者の約6%が死亡し、約42%が休業1か月以上の重傷を負う重大災害となっている。これを受け、厚生労働省は「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」(2024年3月26日最終改正/基発0326第1号)において、切羽天端から45度の角度で設定される崩落危険範囲内への立ち入りを原則禁止・制限している。
同ガイドラインでは、デジタル技術や建設ロボットを活用した穿孔・装薬・支保工建込み・吹付け作業の遠隔化・自動化が強く推奨されている。今回の西松建設による実証は、法規制が求める「切羽天端45度ラインからの人払い」をクリアしつつ、施工速度の向上を同時に満たす事例となった。
参考記事: [清水建設の遠隔装薬、1孔30秒で切羽の完全無人化と安全性向上を実現](https://conshift.net/2026/08/28/post-348/
施工サイクル短縮と切羽無人化がもたらす建設業界への影響
切羽近傍の完全無人化と装薬サイクルの10%短縮は、元請けゼネコン、現場技能者、建機関連企業の事業構造に具体的な変化をもたらす。
ゼネコン(元請け):重大労災リスクの遮断と発注者評価の獲得
山岳トンネル工事における切羽肌落ち災害は、人命の損失のみならず、長期の工事停止命令、損害賠償、指名停止処分など、元請けゼネコンの経営基盤を直接揺るがす重大リスクである。切羽天端45度範囲外からの遠隔操作によって作業員の立ち入りをゼロに抑える技術は、重大事故の発生確率を物理的に排除する。
さらに、山岳トンネルの発破サイクルは「穿孔→装薬→発破→ズリ搬出→支保工建込み→コンクリート吹付け」という反復工程で構成されている。装薬工程で1孔当たり約10%の作業時間を短縮できることは、掘削サイクル全体の時間短縮に寄与し、日進量(1日あたりの掘進長)の向上を通じて労務費・重機賃料などの間接工事費を抑制する。
国土交通省が主導する「i-Construction 2.0」や各地方整備局、JRTTの発注工事において、安全衛生管理体制や無人化施工技術の導入実績は総合評価方式での加点要素となる。無人化装薬の施工実績を持つゼネコンは、超大断面トンネルや複雑地山を伴う高難度プロジェクトの受注競争において有利なポジションを確保できる。
職人・技能労働者:切羽直下の過酷環境からキャビン内オペレーターへ移行
従来の装薬作業では、トンネル特殊工と呼ばれる熟練技能者が粉じんや湧水、落石の危険に晒されながら、切羽直下で数十kgにおよぶ爆薬を手作業で孔内に装填していた。火薬類の取り扱いには国家資格と長年の経験が要求され、高齢化による熟練技術者の引退と若手の入職忌避が深刻な課題となっていた。
本装置の導入により、技能者の役割は「切羽直下での肉体労働」から「安全領域での爆薬ハンドリング」および「空調の整った重機キャビン内でのモニター監視・遠隔操作」へと変化する。身体的負担と生命リスクが大幅に低減されるため、身体能力に依存しない就労が可能となり、若手技能者の定着や作業員の長期就労を支える環境が整う。
一方で、現場作業員には手作業の装填技術だけでなく、タッチパネル操作や映像モニターを通じた空間把握、重機の自動運転システムのモニタリングといったデジタルリテラシーが求められるようになる。
建機メーカー・レンタル業者:後付けアタッチメント市場の拡大
本実証が示した重要な点は、新規の専用装薬機を一から開発・導入するのではなく、「既存のフルオートドリルジャンボに後付けする」方式を採用したことである。山岳トンネル現場で使用されるドリルジャンボは1台あたり数億円規模の大型設備であり、無人化のために全重機を新車へ更新することは元請けや下請けにとって過大な設備投資となる。
後付け方式が確立されたことで、建機メーカーや油圧機器アタッチメントメーカーにとっては、既存機械をアップグレードする制御ユニットやエア圧送式装填治具の供給という新たなビジネスモデルが成立する。
また、建設機械レンタル業者にとっても、全自動ドリルジャンボに遠隔装薬ユニットをオプション搭載したパッケージレンタルの需要が拡大する。特殊アタッチメントの保守点検や制御プログラムの更新を請け負うメンテナンス需要も創出される。
参考記事: 清水建設ら5社、トンネル自動吹付けで切羽作業ゼロと時間5%短縮を実証
ConShiftの視点:Tunnel RemOSが切り拓く山岳トンネルの統合無人化
単体要素技術から「Tunnel RemOS」による群制御へ
西松建設の取り組みを競合他社と比較した際、際立っている点は「個別作業の遠隔化」にとどまらず、2027年度の実証完了を明示した統合施工システム「Tunnel RemOS」の一環として位置づけている点である。
先行する大手ゼネコンの動向を見ると、清水建設が1孔30秒の装薬性能を持つ専用遠隔装薬機「CHARGE MASTER」を開発し、東急建設が穿孔人員を5人から1人に減らす全自動ドリルジャンボ「ROBOROCK」の実証を進めるなど、各工程の自動化技術は出揃いつつある。しかし、穿孔・装薬・ずり出し・吹付けといった個別重機が単独で自動化されても、重機間の連携や切羽進入の切り替えが人手に頼ったままでは、サイクルタイム全体の短縮効果は限定的になる。
西松建設は、2026年7月に発表したホイールローダの自律走行システム(ずり出し工程)と、今回の遠隔装薬技術(発破掘削工程)を同一プラットフォーム上で接続しようとしている。穿孔データをもとに装薬位置を割り出し、発破後のずり性状に応じてローダが自律走行して土砂を搬出する「重機群の統合制御」が実現すれば、切羽作業の完全無人化に向けた工程間インターフェースの断絶が解消される。
後付けアプローチがもたらす普及スピードの差
他社が専用の自動化重機や新規ハードウェアの開発に注力する事例が多い中、西松建設が既存のフルオートドリルジャンボへの後付けにこだわった点は、現場実用化の観点から極めて合理的である。
専用機は高い専用性能を発揮する一方で、トンネル坑内の狭小なスペースにおいて重機の待避や入れ替えの手間を増やし、結果として発破サイクルを圧迫するリスクを孕む。ドリルジャンボに装薬機能を統合すれば、穿孔完了後に重機を入れ替えることなく即座に装薬へ移行できる。
このハードウェアの共通化と後付けユニットによる省スペース化は、大断面の高速道路・新幹線トンネルだけでなく、中小断面の地方道路トンネル工事への横展開を可能にする。2027年度に予定される統合実証の成否は、山岳トンネル施工における標準機のあり方を決定づける分水嶺となる。
トンネル施工現場が明日から着手すべき安全・設備対策
山岳トンネル工事の遠隔化・自動化は、実証段階から現場標準の運用へと移り変わろうとしている。元請けゼネコンおよび専門工事業者の現場管理者は、以下の具体的な準備に着手する必要がある。
- 切羽天端45度ラインの管理体制見直し
厚生労働省のガイドラインに基づき、現場における「切羽天端から45度の範囲」の立入制限手順を再点検する。物理的な境界表示や監視カメラの配置を見直し、手作業による装薬作業時の作業員曝露時間を客観的な数値として把握・記録しておく。 - 保有・調達重機の制御インターフェース確認
今後の現場に導入するドリルジャンボについて、遠隔装薬ユニットや外部制御システムの接続が可能か、通信プロトコルや油圧系統の拡張性を機械メーカーおよびレンタル会社と照合する。後付け施工を前提とした仕様選定を優先する。 - 坑内通信インフラ(Wi-Fi・ローカル5G)の先行整備
遠隔装薬や自動運転重機の運用には、高精細映像の遅延なき伝送と大容量制御信号のやり取りが不可欠となる。掘削切羽の進行に合わせて通信アンテナや光ケーブルを延伸できる坑内ネットワーク網の設計を、着工段階の仮設計画に組み込む。
出典: BUILT
出典: 西松建設プレスリリース(2026年9月29日)
出典: 西松建設プレスリリース(2026年9月8日)
出典: 厚生労働省「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」



