- 概要:大手50社の2025年度受注高は、事務所(3兆9,820億円)や倉庫(1兆2,455億円)、宿泊施設(1兆3,237億円)が2005年度以降で最大を記録した一方、医療・福祉施設は2,891億円(2015年度比-65.7%)と最少へ減少しました。
- 実務への影響:半導体や物流、都市開発に受注が集中し、北海道や熊本県など特定地域で単月偏重が起きているため、元請・専門工事会社ともに労務費の適正転嫁と工事ポートフォリオの見極めが求められます。
国土交通省が毎月公表している「建設工事受注動態統計調査(大手50社調査)」のデータから、国内における建物の受注動向を分析します。この記事では、大手50社における「何の建物が受注されているか(工事種類別)」「誰が発注しているか(民間の発注者別)」「どこで工事をするか(施工地域別)」の3つの軸から、受注の流れを整理します。
本記事で扱う数値はすべて大手50社の受注額をそのまま合計した名目値(母集団への復元を行わない値)であり、建設業界全体の動向を示すものではありません。なお、受注高は請負契約を結んだ時点の金額であり、着工段階の物理的な規模を記録する「建築着工統計調査」の床面積とは集計基準が異なります。資材高騰などの影響については、統計記事「建築費高騰の推移」で解説しています。また、受注全体の推移(全体推計と大手50社の総額・手持ち工事)は、統計記事「建設業界の動向と現状」をご覧ください。
以下の表は、大手50社による国内の工事種類別受注高をまとめたものです。
| 工事種類 | 2025年度受注高 | 2015年度比増減率 |
|---|---|---|
| 事務所・庁舎 | 3兆9,820億円 | +89.8% |
| 宿泊施設 | 1兆3,237億円 | +327.9% |
| 倉庫・流通施設 | 1兆2,455億円 | +97.3% |
| 工場・発電所 | 2兆4,977億円 | +77.8% |
| 教育・研究・文化施設 | 1兆1,734億円 | +33.7% |
| 娯楽施設 | 4,869億円 | +153.3% |
| 住宅 | 2兆23億円 | +16.4% |
| 店舗 | 5,200億円 | +5.1% |
| 医療・福祉施設 | 2,891億円 | -65.7% |
この記事でお伝えする重要なポイントは、以下の3点です。
- 伸びている建物: 事務所・倉庫・宿泊施設などは2005年度以降で最大(大手50社、2025年度)。事務所・庁舎は3兆9,820億円、倉庫・流通施設は1兆2,455億円、宿泊施設(ホテル・旅館など)は1兆3,237億円に達しました。
- 工場と医療の対比: 工場・発電所は2024年度の2兆9,413億円が2005年度以降で最大となり、2025年度は2兆4,977億円となりました。一方で、医療・福祉施設は2,891億円まで減少し、2005年度以降で最少となりました。
- 地域の偏り: 大都市の伸び率は全国並みにとどまる一方、北海道と九州・沖縄の伸びが突出しています。特定の月に受注が集中した年度もあります。
※大手50社調査は1985年度から実施されていますが、現在の工事種類別・発注者別統計表は2005年度から始まっています。また、2015年4月に調査対象企業の一部見直しが行われたため、この記事では長期比較の起点を2015年度とし、それ以前との比較は「2005年度以降で最大・最少」という表現に限定して整理しています。
① 伸びている建物:事務所・倉庫・ホテルなどは2005年度以降で最大
2025年度における大手50社の国内建築計の受注高は、14兆5,272億円(2015年度比+55.9%)となりました。
工事種類別に見ると、複数の用途で2005年度以降の最大値を更新しています。
- 宿泊施設(ホテル・旅館など): 1兆3,237億円(2015年度比+327.9%)
- 娯楽施設: 4,869億円(2015年度比+153.3%)
- 倉庫・流通施設: 1兆2,455億円(2015年度比+97.3%)
- 事務所・庁舎: 3兆9,820億円(2015年度比+89.8%)
- 教育・研究・文化施設: 1兆1,734億円(2015年度比+33.7%)
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宿泊施設は単月集中が数値を大きく押し上げ
宿泊施設の受注高は1兆3,237億円と大幅に伸びていますが、この数値には前提条件があります。2025年4月の1か月間だけで6,509億円が受注されており、年度全体の49.2%を占めています。
この2025年4月を除いて計算すると、2025年度の宿泊施設受注高は6,728億円となり、前年度(3,862億円)比では+74.2%の伸びとなります。発注者と工事種類のクロス集計を見ると、サービス業からの宿泊施設受注が8,280億円(前年度は989億円)を記録しました。大型の宿泊施設の契約が特定の月に集中した可能性があります。
民間発注者別:情報通信・金融・不動産が2005年度以降で最大
民間の発注者別受注高では、情報通信業、金融業・保険業、運輸業・郵便業、不動産業がいずれも2005年度以降で最大となりました。
- 情報通信業: 6,665億円(2015年度比+127.2%)
- うち事務所・庁舎が4,130億円を占めます。近年のIT投資やデータセンター建設計画の活発化と時期が重なっている可能性があります。
- 金融業・保険業: 8,286億円(2015年度比+108.2%)
- うち事務所・庁舎が6,525億円を占めます。
- 運輸業・郵便業: 1兆6,254億円(2015年度比+62.9%)
- 不動産業: 4兆1,881億円(2015年度比+59.1%)
- 内訳は、住宅が1兆5,439億円、事務所・庁舎が1兆2,694億円、倉庫・流通施設が6,021億円と、多岐にわたる用途へ分散しています。
- 製造業: 3兆4,059億円(2015年度比+74.6%)
- 2005年度以降で最大だったのは2024年度の3兆5,181億円で、2025年度は前年度より減少しました。
- 卸売業・小売業: 2015年度比で-15.2%となりました。
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② 工場は2024年度が最大、医療・福祉施設は2005年度以降で最少
工事種類別の推移を詳しく見ると、高水準を維持する産業施設と、縮小が続く施設の間で対照的な動きが出ています。
工場・発電所の受注高は、2024年度の2兆9,413億円が2005年度以降で最大でした。2025年度は2兆4,977億円となり、前年度比で-15.1%減少しています。ただし、減少したとはいえ2015年度(1兆4,047億円)と比較すると約1.8倍(+77.8%)の高水準にあります。発注者側から見ても、製造業からの工場・発電所の受注は2024年度の2兆2,787億円から、2025年度は2兆1,167億円となりました。
医療・福祉施設はピーク時の4分の1に減少
一方で、医療・福祉施設の受注高は減少が続いています。2013年度には1兆1,453億円を記録していましたが、2025年度は2,891億円まで減少し、2005年度以降で最少となりました。2015年度比では-65.7%(約3分の1)の水準です。
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独立行政法人福祉医療機構(WAM)の調査によると、病院の平米単価は2025年度に51.7万円(2014年度比約1.9倍)と上昇が続いています。資材価格や公共工事設計労務単価の上昇に伴う建築費高騰を受け、医療法人などにおいて建て替えや新増設の計画が見直されたり延期されたりしている可能性があります。
③ 地域:大都市は全国並みの伸び、突出したのは北海道と九州・沖縄
大手50社の施工地域別受注高(月次受注額を年度別に合計、施工地で集計)は、小口工事などを除いた47都道府県の合計(全国)で2025年度に19兆9,391億円となり、2011年度以降で最大となりました。
2015年度を100とした指数で地域別の伸びを見ると、大都市圏が全国並みにとどまる一方、北海道と九州・沖縄の伸びが突出しています。
- 東京都: 2025年度は5兆3,704億円で2011年度以降で最大となりましたが、2015年度比の伸び率は+53.7%です。これは全国計(+51.5%)とほぼ同等の水準です。
- 北海道: 2023年度に9,267億円(2015年度=100の指数で244)へ急増し、2025年度も7,787億円(指数205)と高い水準を維持しています。3年度平均(2013〜2015年度平均から2023〜2025年度平均)の増加額は+4,729億円に達し、東京都(+1兆3,761億円)、大阪府(+7,189億円)、神奈川県(+4,930億円)に次ぐ規模となっています。
- 九州・沖縄: 2022年度に1兆8,302億円(指数209)を記録し、2025年度は1兆6,958億円(指数194)となりました。
- 東北: 2025年度は1兆0,361億円(指数77、2015年度比-23.0%)となりました。
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九州・沖縄エリアで特に伸びが目立つ県の受注高推移は以下の通りです。
- 熊本県: 578億円 → 3,289億円(2015年度比+469.2%)
- 鹿児島県: 1,298億円 → 2,927億円(2015年度比+125.5%)
- 沖縄県: 548億円 → 2,633億円(2015年度比+380.5%)
大型案件の契約月による影響に留意
地域別の数値を読む際には、単一の超大型案件が年度の数値を押し上げている側面を考慮する必要があります。
- 大阪府: 2025年度は2兆1,692億円(2015年度比+109.1%)でしたが、2025年4月の1か月間だけで6,672億円(年度全体の30.8%)を受注しています。
- 熊本県: 2025年度(3,289億円)は、2026年2月の1か月間だけで2,179億円(年度全体の66.3%)を受注しました。熊本県菊陽町におけるTSMC子会社JASMの半導体第2工場建設計画など、大型投資の進捗時期と重なっている可能性があります。
- 北海道: 2023年度(9,267億円)は、2023年12月の1か月間だけで2,825億円(年度全体の30.5%)を受注しました。北海道千歳市におけるRapidus(ラピダス)の次世代半導体工場建設計画の進展時期と重なっている可能性があります。
このように、特定月の大型契約が地域全体の年次受注額を大きく左右している点には留意が必要です。
データを実務に活かすためのポイントと留意点
大手50社の受注動態統計を経営判断や調達計画に活用する際は、以下の前提を整理しておくことが不可欠です。
- 業界全体ではなく大手50社の数値であること: 中小工務店や地域ゼネコンを含む建設産業全体の傾向をそのまま反映したものではありません。
- 用途・業種の区分であり個別案件名は示さないこと: 例えば「情報通信業からの事務所受注」がすべてデータセンターであるとは限らず、オフィスの可能性もあります。
- 名目値であること: 資材価格の上昇や労務単価改定による請負額の増額分を含んでいるため、金額の伸びが現場の施工数量(床面積など)の増加と直結するわけではありません。
- 単一大型工事の契約タイミングで大きく変動すること: 宿泊施設や特定県のように、1つの大型契約が単月・単年度の数値を跳ね上げることがあります。
2025年12月には改正建設業法が全面施行され、適正な労務費の確保や原価割れ契約の禁止がより強く求められます。特定地域や特定用途への需要の偏在を踏まえ、元請・下請の双方が無理のない施工体制と適正な見積り提示を進めることが重要になります。
出典: 国土交通省「建設工事受注動態統計調査(大手50社調査)」 / 統計最終更新: 2025年度
よくある質問(FAQ)
Q. 宿泊施設の受注高が急増している主な理由はどのようなものですか?
A. 2025年度の宿泊施設(ホテル・旅館など)の受注高は1兆3,237億円(2015年度比+327.9%)と急伸しましたが、2025年4月の1か月間だけで6,509億円(年度全体の49.2%)を占めています。単一の大型案件が数値を大きく押し上げた可能性があります。
Q. 工場の受注高はどのような推移を見せていますか?
A. 大手50社の工場・発電所の受注高は、2024年度に2兆9,413億円に達し、2005年度以降で最大となりました。2025年度は2兆4,977億円と前年度比で15.1%減少したものの、2015年度(1兆4,047億円)の約1.8倍にあたる高水準を維持しています。
Q. 地方で受注高の伸びが突出している地域はどこですか?
A. 2015年度=100とした施工地別の指数で、北海道は2025年度に205.3(7,787億円)、九州・沖縄は194.0(1兆6,958億円)となり、全国計の151.5を上回りました。熊本県では2026年2月単月で2,179億円(年度の66.3%)を受注するなど、大型半導体投資の進展と重なる局所的な受注集中が見られます。