清水建設は日本キヤリアおよび協立エアテックと共同で、超高層ビルの建設現場に向けた仮設冷房システムを開発し、東京・大手町で施工中の「Torch Tower」へ初弾導入した。本システムは現場内に設置した大型空調機の排気口と外装カーテンウォールの通気口をダクトで直結し、100メートル四方の閉鎖フロアから排熱を屋外へ強制排出する構造を備えている。
カーテンウォール閉鎖後の熱だまりを防ぐ排熱ダクト直結システム
超高層建築の現場では、外装カーテンウォールを取り付けた段階で開口部がふさがれ、自然風による換気が遮断される。従来のスポットクーラーでは冷風を供給できるものの、機器背面の排熱が同じフロア内に滞留し、空間全体の室温や湿度(暑さ指数:WBGT)を押し上げる要因となっていた。
今回のシステムでは、空調機器から生じる排熱を屋内へ放出させず、建物外へ直接逃がす機構を組み込むことで、外皮閉鎖後の大空間における作業環境改善を図っている。
Torch Tower現場における仮設冷房システムの導入概要
清水建設が施工を進める東京・大手町の超高層ビル「Torch Tower(常盤橋プロジェクト建設所)」では、基準階の広大なワンフロアを対象に冷却効果の実証を進めている。
| 項目 | Torch Tower現場での仕様・運用内容 |
|---|---|
| 導入対象現場 | Torch Tower(東京都千代田区大手町) |
| 対象エリア規模 | 約100m×100mの基準階フロア |
| 設置台数・配置 | フロアの四隅に各1台(計4台配置) |
| ベース空調機器 | 空冷式一体形パッケージエアコン(日本キヤリア製「シングルエース」) |
| 排熱処理方式 | 室外機排気口とカーテンウォール通気口を排気ダクトで直結 |
| 吹き出し口仕様 | 段ボール製組み立て式制気口(協立エアテック共同開発) |
| 補助冷却機能 | 室内機の発生ドレン水を室外機熱交換器へ噴霧 |
| 稼働監視 | 遠隔監視プラットフォーム(ABOUND HVAC Connect)活用 |
フロア四隅に計4台配置されたパッケージエアコンは、外装カーテンウォールの部材間に設けられた通気スリットへ専用ダクトを接続している。これにより、外気を取り込みながら熱交換後の温風を確実に外部へ逃がし、密閉された大空間内の温度上昇を物理的に遮断する。
軽量化と熱交換効率を高める要素技術
本システムには、建設現場特有の施工手順や搬送制約に対応するための技術が複数組み込まれている。
空調機器本体には日本キヤリアの空冷式一体形エアコン「シングルエース」を採用し、専用架台を組み合わせることで現場内のフォークリフトやハンドリフトによる運搬を可能にした。冷風をフロア内へ拡散させる吹き出し口には、協立エアテックと共同開発した段ボール素材の組み立て式制気口を採用している。金属製チャンバーボックスや鋼板ダクトに比べて部材重量を大幅に軽減できるため、仕上げ工事や間仕切り壁の施工進捗に伴う吹き出し位置の変更を作業員の手作業で進められる。
さらに、室内機側で発生する結露水(ドレン水)を排水処理するだけでなく、室外機の熱交換器フィンへ噴霧する機構を搭載した。ドレン水の気化熱を利用して凝縮温度を下げることで、高負荷運転時における熱交換効率の向上と消費電力の抑制を両立させている。導入に先立ち、日本キヤリアの富士事業所内に建設現場を模した検証環境を構築し、ダクト接続時の静圧損失や風量低下、冷却能力の実証試験を経て現場へ持ち込まれた。
仮設空調開発と現場安全衛生基準の時系列推移
建設現場における温熱環境の改善は、空調設備メーカーとの共同開発や法規制の強化と連動して進んでいる。
| 年月 | 主体 | 実施内容・関連法規の動向 |
|---|---|---|
| 2024年4月 | 厚生労働省 | 建設業に対する時間外労働の上限規制(年720時間上限)が完全適用 |
| 2025年6月 | 厚生労働省 | 改正労働安全衛生規則の施行(WBGT28度以上等での熱中症対策義務化) |
| 2026年3月 | 厚生労働省 | 「職場における熱中症防止のためのガイドライン」策定(予防管理者の選任等) |
| 2026年9月 | 清水建設・日本キヤリア・協立エアテック | 段ボール製吹き出し口を採用した可搬式大型仮設空調システムを開発 |
| 2026年9月 | 清水建設 | Torch Tower建設現場へ排熱ダクト直結式仮設冷房システムを導入公表 |
| 2026年10月 | 日本キヤリア | 清水建設現場における遠隔監視稼働実証テストの実施を公表 |
厚生労働省の統計によると、職場における熱中症死傷者数は2024年に1,257人(うち建設業の死亡者数は全業種最多の10人)、2025年には過去最多の1,803人(うち建設業の死傷者数292人、死亡者数5人)を記録した。2021年から2025年までの5年間累計でも建設業の死亡者数は52人に達し、全業種の4割近くを占める。2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則では、WBGT値28度以上または気温31度以上の場所で作業を行う場合、報告体制の整備や作業中断手順の作成・周知が義務付けられ、違反時には罰則の対象となる。
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参考記事: 熱中症対策とWBGTの計算方法と実務基準|現場で命を守る作業判断のポイント
建設業界の主要プレイヤーに与える実務的影響
排熱を屋外へ逃がす仮設全体冷房の実装は、元請ゼネコンの現場統括から専門工事業者の労務環境、設備レンタル市場の調達体系に至るまで実務上の影響を与える。
ゼネコン(元請け):外皮施工後の工程遅延リスク低減と安全配慮義務の履行
元請ゼネコンにとって、外装カーテンウォールを取り付けた後のフロア環境維持は、夏期の工程進捗を左右するクリティカルパスであった。密閉されたフロア内の温湿度上昇により、WBGT基準値を超過して作業中止や休憩時間の延長が頻発すると、内装・設備工事の遅延に直結する。2024年4月からの時間外労働上限規制(年720時間上限)のもとでは、夏期の工程遅れを秋以降の残業や休日出勤で強引に挽回する運用は成立しない。
本システムによってカーテンウォール閉鎖フロアの空間空調が成立すれば、計画通りの連続作業時間を確保しやすくなる。また、改正労働安全衛生規則に基づく法的義務や安全配慮義務を果たす実効的な対策となり、重層下請構造における協力会社の労務安全を元請設備として担保できる。
職人・技能労働者:個人装備の限界解消と内装仕上げ作業の精度安定
内装工、電気工、配管工などの技能労働者は、これまでファン付き作業服や冷却ベストといった個人用保護具を装着して高温多湿のフロア作業に従事してきた。しかし、外装密閉後の無風環境ではファン付き作業服が吸い込む空気自体が高温多湿となり、体温冷却効果が著しく減退する課題があった。
フロア全体が機械冷却され、排熱が屋外へ排出される環境下では、個人用装備本来の冷却性能が発揮される。熱ストレスによる集中力低下や脱水症状のリスクが緩和され、ボード貼りや配線結線、塗装などの精密作業における施工手戻りや品質不良の防止につながる。
建機・空調レンタル業者:現場最適化パッケージの需要拡大と機材構成の変化
仮設機材を供給する建機レンタル会社や空調設備機器メーカーにおいては、従来の単体スポットクーラー貸し出しから、排熱処理機構を一体化したパッケージ供給への需要シフトが生じる。
特に超高層ビルや大型再開発現場では、カーテンウォールのスリット寸法に合わせた専用アタッチメントダクトや、手作業で運搬可能な軽量部材のセット供給が求められる。単に汎用エアコンを貸し出すだけでなく、階高やスラブ面積に応じた必要風量の算定、搬送経路に収まるユニット設計、遠隔稼働監視システムの提供といったエンジニアリングを含めた提案能力が受注を左右する。
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参考記事: 大林組や鴻池組は朝7時始業へ|対策費1.5億円拡大に見る酷暑対策の最前線
ConShiftの視点:仮設インフラによる「空間空調」への構造転換
従来の建設現場における熱中症対策は、塩分・水分の補給、ファン付き作業服の支給、現場事務所や仮設休憩所へのエアコン設置など、作業者個人の装備や作業エリア外での身体冷却に依存する「局所的アプローチ」が中心であった。大林組による始業時間の早朝前倒しや鴻池組の変形労働時間制導入といった就業管理の工夫も進むが、躯体・内装作業を行う現場そのものの温熱環境を直接制御する手段は限られていた。
清水建設による今回のTorch Towerへの導入は、外装カーテンウォールという建築躯体の開口部を排熱インフラとして再定義し、作業空間そのものを冷却する「空間空調」へ踏み込んだ点に構造的な特徴がある。
【従来の現場温熱対策】
作業者個人への依存(ファン付きウェア、水分補給)+ 休憩所冷却
↓
外装密閉後の現場は排熱滞留により高温化・作業中断が発生
【排熱ダクト直結式仮設冷房】
建築躯体開口部を活用した強制排熱 + 軽量制気口によるフロア全体空調
↓
元請が現場インフラとして温熱環境を制御し、作業空間のWBGTを直接低減
排熱を室外へ逃がせない限り、フロア内に何台クーラーを置いても熱エネルギーの総量は減らず、むしろ機器の発熱によって環境が悪化するという熱力学的な矛盾が存在していた。本システムはこの制約を外装スリットとの直結という施工ディテールで解消している。
今後は、超高層ビルにとどまらず、外壁パネルやサッシの早期取付が進む中低層オフィス、データセンター、大型物流倉庫の現場においても、密閉フロアの排熱処理設計が標準化される見通しである。元請ゼネコンは、これらの空調機器費用やダクト配管工事の工数を単なる共通仮設費の余剰支出として扱うのではなく、契約時の「安全衛生経費」として適切に見積もり・内訳明示し、発注者との協議を経て適正工費を確保する積算実務の定着が不可欠となる。
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明日から意識すべきこと
自社が管理する現場において、外装密閉後の温熱管理を個人任せにせず、仮設設備による空間制御へ移行するための確認手順を整理する。
- 施工フロアの開口部と排熱経路の事前確認
外装パネルやサッシの先行取り付けを計画している工区において、仮設クーラーの排熱を外部へ排出できる通気スリットや仮設開口部が確保可能か、設計・施工計画段階で確認する。
- 移設性を考慮した仮設空調機器の揚重計画
内装仕上げや配管工事の工程に合わせて機器レイアウトの変更が発生することを想定し、クレーンに頼らず台車や手作業で運搬可能な軽量部材(段ボールダクト等)の採用可否を検討する。
- 安全衛生経費としての見積内訳の明示
熱中症対策義務化に伴う大型仮設空調のリース料、排気ダクト部材費、電気幹線引き込み費用を現場管理費に埋もれさせず、見積書上に安全衛生対策の実費として計上し発注者へ提示する。
出典: Yahoo!ニュース
出典: 日本キヤリア ニュースリリース
出典: 清水建設 プレスリリース
出典: 建設通信新聞 公式記事
出典: 厚生労働省 労働安全衛生規則改正資料



