NTT東日本、鹿島建設、応用地質、オリエンタルコンサルタンツ、三菱総合研究所の5社は、2026年10月14日に「光ファイバセンシングの道路維持管理への活用モデル構築に向けたコンソーシアム」を設立しました。道路下や道路近傍に敷設された既存の通信用光ファイバや専用光ファイバから振動・ひずみ・温度のデータを取得し、路面から地盤までの道路断面と交通状況を常時把握する実証を地方自治体と進めます。
光ファイバを地中センサーに変える5社連携の全容
道路インフラの点検実務では、道路法に基づく5年に1度の定期点検や巡回車両による調査など、周期的な目視・計測が基準とされてきました。新設されたコンソーシアムは、地中に埋設された光ファイバを分布型センサーとして利用することで、巡回点検の合間に発生する路盤の緩みや交通負荷を把握する仕組みを検証します。
コンソーシアム設立の経緯と5W1H整理
2026年10月14日に設立が合意された本コンソーシアムは、各社が保有する通信技術、施工技術、地質解析、点検計画策定、制度設計のノウハウを統合する枠組みです。
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 設立主体 | NTT東日本、鹿島建設、応用地質、オリエンタルコンサルタンツ、三菱総合研究所 |
| 設立日 | 2026年10月14日(同日発表) |
| 対象空間 | 道路表層(アスファルト等)、路盤、路体、周辺地盤、および走行車線 |
| 取得データ | 通信用・専用光ファイバの散乱光解析による振動・ひずみ・温度データ |
| 目的 | 常時モニタリングによる詳細点検箇所の絞り込みとデータ駆動型予防保全の実現 |
| 直近の動き | 地方自治体との実証フィールド選定および実務適用に向けた意見交換を開始 |
本技術の基盤となるのは、光ファイバケーブル内を通過するレーザー光の散乱特性を解析する「光ファイバセンシング技術」です。地中を通る光ファイバに外部から加わる圧力、微小なひずみ、温度変化、車両通過時の振動を光の波長変化として捉えることで、数キロメートルから数十キロメートルに及ぶ連続的な区間を1本のケーブルでリアルタイムに計測します。
NTT東日本をはじめとするNTTグループでは、2025年10月21日に「道路陥没リスクを光ファイバで発見する新技術」を発表するなど、地下インフラを活用した路面下空洞や陥没兆候の検知実験を先行して進めてきました。今回のコンソーシアムは、この通信技術を地盤工学や土木構造物の維持管理実務と直接結合させた点に特徴があります。
参画5社の役割分担と技術領域
コンソーシアムにおける5社の役割分担は、データ取得から最終的な自治体業務への落とし込みまで、直列的かつ相互補完的に構成されています。
| 参画企業 | 代表者役職・氏名 | 主な担当領域と検証業務 |
|---|---|---|
| 東日本電信電話株式会社(NTT東日本) | 代表取締役社長 澁谷直樹 | 既存通信用光ファイバの活用検証、光センシングデータの収集・伝送 |
| 鹿島建設株式会社 | 代表取締役 社長執行役員 桐生雅文 | センシングデータの解析、道路構造・舗装状態の評価モデル構築 |
| 応用地質株式会社 | 代表取締役社長 天野洋文 | 路盤・地盤データの解析、地質リスク評価、土質力学に基づく状態診断 |
| 株式会社オリエンタルコンサルタンツ | 代表取締役社長 野崎秀則 | 計測監視データと定期点検の融合、維持管理計画の高度化手法策定 |
| 株式会社三菱総合研究所 | 代表取締役 社長執行役員 籔田健二 | 道路管理実務への社会実装、現行の点検基準・制度との整合性整理 |
NTT東日本が既存の光通信網をセンシング基盤として開放し、鹿島建設が土木施工で培った構造解析技術を投じて舗装の損傷度を判定します。応用地質は地中のゆるみや地下水変動など不可視領域の地盤評価を担当し、オリエンタルコンサルタンツがこれらを道路台帳や点検計画へ反映する実務フローを構築します。三菱総合研究所は、道路構造令や国土交通省の点検要領といった既存ルールとの適合性を整理し、自治体での予算化や調達規格化を支援する体制です。
参考記事: 鹿島建設、成田空港で自動運転3台を11月実証|光ファイバーで設備削減へ
道路空間マネジメントが対象とする「道路断面」の構造
従来の道路点検では、路面性状測定車によるわだち掘れ量・ひび割れ率・平たん性の測定や、点検員による目視巡回が中心でした。これらは路面の表層に現れた変状を捉える手法であり、アスファルトの下にある路盤の支持力低下や地盤の空洞化といった地下の進行性劣化を直接検知することは困難でした。
本コンソーシアムが掲げる「道路空間マネジメント」および「道路断面マネジメント」は、舗装表層、路盤、路体、地盤を一体のシステムとして捉えます。
【道路断面マネジメントの概念図】
[表層・基層] ◀ 車両の走行荷重・振動(交通量・通過速度の把握)
───────────────────────────────
[路盤・路体] ◀ ひずみ・沈下・緩みの検知
───────────────────────────────
[周辺地盤] ◀ 光ファイバによる常時センシング(振動・温度・変位)
地下水流動・土砂流出・空洞化リスクの可視化
道路下に敷設された光ファイバが車両通過時の振動パターンを連続的に記録することで、以下の2系統のデータが同時に生成されます。
- 交通モニタリングデータ: 大型車の混入率、走行速度、軸重による振動エネルギーの推移
- 構造健全性データ: 振動波形の減衰特性の変化、局所的なひずみ集中、地盤内の温度変化
路盤が緩んでいる箇所や空洞が発生している区間では、健全な地盤と比較して振動の伝播速度や周波数成分が変化します。光ファイバから得られる時系列データを解析することで、路面が目視可能なレベルで陥没する前に、下層部の力学的変化を特定することが可能になります。
参考記事: インフラ長寿命化計画とは?予防保全への転換と実務担当者が押さえるべき計画策定のポイント
建設業界と行政機関に及ぼす影響
光ファイバセンシングを活用した常時監視モデルの確立は、道路の新設から維持管理へのシフトが進む建設業界各層に対し、事業領域の再定義を迫ります。
ゼネコン(元請け):新設施工から「常時監視インフラ」の供給・運用へ
元請けゼネコンにとって、光ファイバセンシング技術の導入は、道路建設および舗装更新工事の受注仕様を変える要因となります。従来の道路工事は、設計図書に基づき所定の支持力と平たん性を確保して引き渡す「売り切り型」の請負が通例でした。
今後は、路盤工や舗装工事の施工プロセスにおいて、光ファイバケーブルをあらかじめ埋設し、構造物の供用開始と同時にモニタリングデータを自社で解析・運用する高付加価値サービスの展開が可能になります。
鹿島建設は、2026年11月から実施される成田国際空港の専用路を用いた自動物流道路の実証実験においても、舗装面や路肩に埋設した光ファイバによる車両位置検知や設備削減を検証しています。新設工事が頭打ちとなる中で、インフラストックの内部に情報収集機能を組み込み、長期の維持管理契約や予防保全工事を包括的に受注するアセットマネジメント型ビジネスへの移行が進みます。
行政・道路管理者:目視依存からの脱却と維持管理予算の集中配分
地方自治体の土木担当課は、技術職員の減少と管理延長の増大という二重の制約下に置かれています。北海道士幌町のように建設業就業者1人当たりの担当道路延長が4200kmに達する過疎地では、定期的な目視巡回を網羅的に実施すること自体が成立しなくなっています。
全国約73万橋の道路橋のうち、建設後50年以上を経過する施設の割合は2023年3月時点の37%から、2030年に54%、2040年には75%へと上昇します。事後保全を継続した場合の維持管理・更新費用は約280兆円に達しますが、データに基づく予防保全へ移行できれば約190兆円に抑えられ、約90兆円のコスト縮減が可能と試算されています。
光ファイバによる常時センシングが実現すれば、異常兆候が検知された危険区間のみに点検車両や技術者を重点派遣する「トリアージ」が可能になります。全数を均一に巡回する運用から、客観データに基づくリスク管理へと切り替えることで、限られた維持修繕予算の執行効率が向上します。
参考記事: 国土交通省の試算で予防保全は90兆円縮減|2050年作業員半減と橋の終活
参考記事: 士幌町は1人で道路4200km維持|群マネ難航で迫る賢い縮小と事業転換
設計事務所・建設コンサルタント:点検診断業務のデータ統合と計画策定の自動化
建設コンサルタントや地質調査会社にとっては、従来の現場踏査やボーリング調査に依存した単発の調査業務から、継続的な時系列データを扱ったコンサルティングへの転換が生じます。
オリエンタルコンサルタンツや応用地質が本コンソーシアムに参画しているように、計測監視データと定期点検結果を統合し、道路の舗装寿命や地盤変状を予測するアルゴリズムの構築が業務の中核となります。
具体的には、自治体が策定する「インフラ長寿命化修繕計画」の改定実務において、光ファイバから得られた交通量データ(軸重頻度)と路盤ひずみの相関関係を入力パラメータとして組み込み、区間ごとのLCC(ライフサイクルコスト)を自動シミュレーションする設計支援業務が一般化していきます。
参考記事: 橋梁定期点検(近接目視)とは?5年ごとの判定基準と現場課題・最新技術を解説
ConShiftの視点:通信インフラを借用した維持管理プラットフォーム競争
本コンソーシアムの取り組みは、土木構造物の維持管理が「現地の物理的測定」から「通信ネットワークを介した常時取得」へと移行する構造転換を表しています。
注目すべきは、NTT東日本が持つ全国の通信用地下管路および光ファイバという既存アセットをセンサーとして再定義した点です。従来、インフラモニタリングの普及を阻んできた最大の要因は、センサー自体の調達費に加え、電源供給線の引き回し、通信回線の新設、機器の耐用年数超過に伴う交換費用といった初期投資・更新コストの重さにありました。
道路下にすでに網の目のように張り巡らされている通信回線をそのままセンシング素子として転用できれば、新たな地上設備や受変電設備を道路沿いに連続配置する必要がなくなります。
【従来のセンサー監視と光ファイバセンシングの構造比較】
[従来のポイント型監視]
・路側に多数のカメラ、ミリ波レーダー、振動計を設置
・機器ごとに電源線、通信線の敷設工事が必要
・風雨による経年劣化、機器交換、清掃作業が多発
[光ファイバセンシング監視]
・地下に敷設済みの光ファイバ1本で数十kmを連続測定
・道路構造物そのものをセンサーネットワーク化
・路側機器を削減し、維持管理・更新費用を大幅に低減
鹿島建設をはじめとする大手ゼネコンにとって、この動きは建設業が通信事業者やITシンクタンクと直接アライアンスを組み、インフラの運行管理・維持管理データを握るプラットフォーマーへと進出する契機になります。
単に道路の舗装打ち換え工事を請け負うだけの下請的関係から脱却し、地盤・交通の統合データを基に「どの区間を、いつ、どのような工法で補修すべきか」を発注元へ能動的に提案・運用代行する包括的民間委託の受注競争において、センシング網を押さえているかどうかが参入障壁となる局面が想定されます。
参考記事: 国土交通省が27年度要求で公共事業費7.6兆円計上|予防保全へ移行
まとめ:明日から意識すべきこと
道路下の光ファイバを活用した維持管理モデルの実証開始に伴い、建設企業や現場実務者が着目すべき行動方針は以下の通りです。
- 施工・維持管理における通信埋設物の配置確認
自社が担当する施工エリアや維持管理路線において、通信用光ファイバの敷設ルートと埋設深度を台帳上で把握し、将来的なセンシング連動工事への適応性を確認する。
- 包括的維持管理業務へのデータ解析ノウハウの組み込み
自治体発注の包括委託や長寿命化業務において、目視点検記録だけでなく、振動・交通量・路盤性状の定量的データを組み合わせた予防保全計画の提案体制を整える。
- 路面下空洞・地盤リスクへの対応工法の標準化
光ファイバセンシングによって路盤・地盤の変状が早期検知された場合を想定し、舗装の全断面打替えを待たずに施工できる小規模・急速補修工法の技術検証を進める。
路面表層だけでなく地下の構造までを連続監視する技術の実装は、建設業の業務フローを事後的な修繕から予測に基づく予防保全へと大きく転換させます。
出典: デジコン
出典: NTT東日本 プレスリリース


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