株式会社荒木組は2026年10月2日、岡山県岡山市で施工中の直轄河川改修において、建設用3Dプリンタで事前製作したコンクリート製階段を据え付ける新工法を採用したと発表しました。従来の現場打ち工法で12日を要していた階段の施工工程を2日へ短縮し、現場作業に必要な人員を半数以下に抑えます。
旭川内山下堤防整備における3Dプリンタ階段の導入概要
岡山県岡山市北区の内山下地区を進む「令和7年度旭川内山下堤防整備工事」において、堤防法面に設置する階段工の施工方法が刷新されました。発注者は国土交通省中国地方整備局岡山河川事務所で、施工を株式会社荒木組(本社:岡山市北区、資本金1億円、従業員数237人)が担当しています。荒木組は2025年3月に本工事を落札(落札額約3.3億円)し、現場整備を進めてきました。
今回の工事で導入されたのは、事前に作成した3Dデータに基づき、建設用3Dプリンタで一体造形した階段部材を現場へトラック運搬し、クレーン等を用いて据え付けるプレファブ型の工法です。岡山労働局が公表した2026年8月時点のデータによると、岡山県内における建設関連職種の有効求人倍率は4.51倍に達しており、特に型枠大工や生コンクリート打設に携わる技能労働者の確保が極めて困難な状況にあります。こうした労務供給の制約に対し、現場作業そのものを最小化する手段として本工法が選定されました。
荒木組は過去にも、堤防工事の大型ブロック端部に施工する「端止め」構造物の製作において建設用3Dプリンタを活用した実績を持っています。今回はその知見をさらに一歩進め、複雑な段鼻や蹴込みの形状を持ち、従来は熟練技能者の手作業による型枠加工が不可欠だった階段構造物への実適用に踏み切りました。
従来工法と建設用3Dプリンタ工法の施工プロセス比較
従来の現場打ちコンクリート工法では、傾斜のある法面上で複雑な階段状の木製型枠を精度高く組み上げる必要がありました。型枠組立、鉄筋配置、生コンクリート打設、強度が発現するまでの養生期間、そして型枠脱型と表面仕上げに至るまで、天候に左右される複数の工程を現場で順次進めなければならず、階段1基あたり実働約12日間の拘束が生じていました。
対して今回の3Dプリンタ工法では、事前にデジタルモデルから直接スライシングデータを作成し、工場等の管理された環境下で自動積層造形を行います。現地では基礎部の整地完了後、完成した階段部材を搬入・据付・固定する作業のみとなるため、現場施工日数はわずか2日で完了します。
| 比較項目 | 従来の現場打ちコンクリート工法 | 建設用3Dプリンタ部材据付工法 |
|---|---|---|
| 現場作業日数 | 約12日間 | 2日間(約83%短縮) |
| 必要人員数 | 型枠大工・生コン打設工など複数班 | 据付作業員・クレーンオペレーター等 |
| 主な現場工程 | 墨出し、型枠加工・組立、打設、養生、脱型 | 基礎均し、部材楊重・据付、接合部処理 |
| 施工品質の決定要因 | 現場技能者の技量および外気温・湿度環境 | デジタルデータの精度および工場品質管理 |
| 型枠廃材の発生 | 木製型枠・セパレーター等の産業廃棄物が発生 | 型枠レス造形のため現場廃材は原則ゼロ |
国内外における建設3Dプリンタの普及状況
建設現場における3Dプリンティング技術は、研究機関や大手ゼネコンによる実験室内の実証段階を脱し、土木・建築の実工事へ急速に浸透しています。本工事で写真提供元としても関与が示されている株式会社Polyuse(ポリウス)は、2026年7月時点で建設用3Dプリンタによる国内累計施工件数が300件を突破したことを公表しています。同社の量産型建設用3Dプリンタ「Polyuse One」は全国で40台が稼働しており、建機レンタル大手の西尾レントオール等を通じた機材調達網の構築が進められています。
加えて法制度面でも、2026年6月に国土交通省が「積層造形型枠一体型壁式鉄筋コンクリート造」に関する新告示を公布・施行しました。延べ面積200平方メートル以下・平屋建ての建築物について、従来数千万円の検証費と長期の審査を要していた建築基準法第20条の大臣認定が不要となり、通常の建築確認申請のみで着工できる仕様規定が整いました。土木構造物だけでなく建築分野も含め、デジタルデータを用いた自動積層工法を標準的な施工手段として位置づける基盤が形成されつつあります。
参考記事: 国土交通省|200㎡以下の3Dプリンター建築告示施行で事業化加速へ
建設サプライチェーンを構成する主要プレイヤーへの影響
旭川内山下堤防整備工事における工期83%短縮という実績は、元請ゼネコンから施工管理者、専門工事業者に至るサプライチェーン全体の業務フローに変革を迫ります。
ゼネコン(元請け):標準化部材のデータベース化と積算精度の高度化
地方ゼネコンにとって、実工事における3Dプリンタ工法の適用は、現場打ちコンクリートとプレキャスト(PCa)製品に次ぐ「第3の選択肢」を自社施工プロセスへ組み込む契機となります。既製品のPCa階段では対応できない特殊な法面勾配や寸法制約がある場合でも、3Dデータさえ作成すれば特注型枠を外注することなく短納期で部材を調達可能です。
荒木組のように複数現場で造形実績を重ねる企業は、部材ごとの平米単価、運搬重量限界、据付人工の歩掛データを社内に蓄積できます。公共工事の技術提案(総合評価落札方式)において、工期短縮と現場省人化を定量的なエビデンスを伴って提案できる体制を整えることは、今後の入札競争力に直結します。
参考記事: プレキャストコンクリート(PCa)とは?RC・PCとの差異や現場導入のメリットを徹底解説
現場監督・施工管理者:長期拘束の解消と工程管理のフロントローディング化
施工管理者にとって、現場打ち階段工は工程管理上の大きなボトルネックでした。雨天による生コン打設の中止、所定の強度が出るまでの養生待ち、型枠解体後の仕上がり確認など、断続的な管理業務が約2週間にわたり発生していました。
3Dプリンタ部材の据付工法を採用することで、現場での管理業務は部材搬入日の立会いと据付精度の計測という短期間のタスクに集約されます。これにより、現場常駐を余儀なくされていた拘束時間が大幅に削減され、施工管理技術者の業務負荷軽減につながります。一方で、事前の3Dデータ照査や干渉チェック、揚重機械の進入路確保といった着工前の調整業務(フロントローディング)の比重が高まります。
参考記事: i-Constructionとは?建設DXを推進する3つの柱と導入のメリットをわかりやすく解説
職人・専門工事業者:型枠大工の需給逼迫緩和と機械オペレーションへの移行
有効求人倍率が4倍を超えるような地域において、熟練の型枠大工や左官工の高齢化・離職は、工事の着工遅延に直結する深刻なリスクとなっています。階段や排水桝、法面小段のような複雑・狭小な部位を現場打ちから3Dプリンタ部材へと置き換えることは、限られた熟練職人の人工を大規模な躯体工事や難度の高い重要工区へ集中させる効果を生みます。
さらに、下請の専門工事業者にとっても、従来の重労働な型枠建込・解体作業から、揚重合図や部材のモルタル充填・接合管理といった軽労化された作業への転換が進みます。技能労働者の身体的負荷が低減されることで、若年層や外国人材、女性技術者が従事しやすい作業環境の整備が現実味を帯びてきます。
参考記事: 建設RX・施工ロボットとは?設立背景や主要技術・現場での活用メリットを解説
ConShiftの視点:局所部材のオフサイト化が示す地方ゼネコンの生存戦略
旭川内山下堤防整備工事の事例において評価すべき点は、荒木組が掲げる「新技術の導入そのものを目的化せず、現場ごとの条件に応じて品質・施工性・コストを比較検証する」というリアリズムです。
大規模な構造物全体を一度に3Dプリンタで現場造形(オンサイト造形)しようとすれば、天候管理、現場への大型プリンタ搬入、特殊材料の配合管理など運用上のハードルが跳ね上がります。実際、JR東日本が岩手県釜石線の小佐野駅建替えで実施しているオンサイト造形のような事例は、駅敷地内での輸送制約を回避する明確な目的があって選択されたものです。これに対し、今回の堤防階段のように「局所的かつ形状が複雑な部材」に絞り、事前に工場等で自動出力した上で現場に据え付けるオフサイト型のアプローチは、既存のクレーン揚重設備や運搬動線をそのまま活用できるため、地方ゼネコンにとって極めて再現性の高い導入形態といえます。
岡山県内で有効求人倍率4.51倍という逼迫した労務環境下において、階段施工の現場作業を12日から2日へ短縮し、人員を半数以下に抑え込んだ実績は、技能者不足を前提とした施工体制の確立を意味します。特注寸法の型枠加工をデジタル積層へ置き換える流れは、堤防の階段工にとどまらず、擁壁の端止めブロック、集水桝、小規模擁壁などの付帯構造物へと不可逆的に広がっていきます。
参考記事: JR東日本が小佐野駅を3Dプリンター現場直施工|27年3月供用へ
施工現場が明日から意識すべき実務対応
建設用3Dプリンタによる部材活用を現実の現場へ導入するためには、以下の実務ステップを踏むことが求められます。
- 現場打ち付帯構造物の棚卸しと工期算出
自社の施工案件において、階段、側溝接続桝、端止めなど「形状が特殊で型枠加工に手間がかかっている小規模部材」をリストアップし、型枠組立から養生脱型までに要している実働日数と人工数を算出します。
- 3Dモデル作成・照査体制の確認
発注図面から3Dプリンタ用の積層データを出力できる設計環境、またはBIM/CIMデータを取り扱える協力会社との連携経路が存在するか確認します。
- 搬入経路と揚重機の能力検証
オフサイトで造形された一体部材の重量を把握し、現場までの道路幅員、使用可能なクレーンの定格荷重および作業半径に適合するかを仮設計画段階で検証します。
- 品質証明手法の事前協議
建設用3Dプリンタ部材を採用する場合、材料強度や一体性の証明書類、出来形管理の測定手法について、事前に発注者(監督職員)と協議を行い、現場受入検査の基準を明確化しておきます。
出典: BUILT
出典: 荒木組 公式サイト
出典: 建設ITワールド
出典: PR TIMES
出典: ShareLab NEWS
出典: KEPPLE



