大林組・宮地組JVは、2024年の能登半島地震で被災した石川県輪島市の国道249号本復旧工事において、掘削から盛土に至る一連の土工作業を自動運転および遠隔操作建機の連携で完結させる自動化施工を導入しました。崩落土の掘削から約1km離れた盛土現場への運搬・敷き均しまでを、自律バックホーや自動運転ダンプトラックなど4機種の協調稼働により運用しています。
国道249号大川浜工区における盛土自動化施工の全貌
能登半島地震に伴う大規模な地盤隆起や土砂崩落により寸断された石川県輪島市の沿岸幹線道路において、無人化技術を統合した本格的なインフラ復旧工事が進行しています。国土交通省北陸地方整備局能登復興事務所が直轄権限代行として進める本復旧事業のうち、大林組・宮地組地域維持型建設共同企業体(JV)が担当する大川浜工区において、土工プロセス全体を自律・遠隔建機でつなぐ自動化施工が実現場へ投入されました。
崩落土の掘削から盛土完了までの自律協調フロー
今回の現場で導入されたシステムは、個別の建設機械を単独で自動化する段階を超え、土砂の発生場所から盛土造成地点までの各工程をデジタルデータと管制システムでシームレスに結びつけています。
現場における作業プロセスは以下の流れで構成されています。
- 自律掘削と土質改良: 地震によって崩落した土砂を自律運転バックホーが掘削し、自走式土質改良機「リテラ」へ投入。
- 遠隔操作による積込み: 改良された盛土用土砂を、3次元対応遠隔操縦モニターを備えた遠隔操縦バックホー「サロゲート」により、自動運転アーティキュレートダンプトラックの荷台へ積載。
- 1km区間の自動運搬: 土砂を積載した自動運転ダンプトラックが、海岸沿いの運搬ルート約1kmを自律走行して盛土ヤードへ移動し、指定位置へ土砂を排出。
- 自動敷き均し・整地: 排出された土砂を、待ち構える自動運転ブルドーザーが設計データに沿って敷き均し、盛土を成形。
これら一連の動きは、建機フリートマネジメントシステム(FMS)によって統合管理されています。各建機の位置情報や稼働ステータス、走行ルート上の安全確認が集中監視されており、重機同士の干渉を防ぎながら連続的な土工サイクルを維持しています。
| 施工工程 | 投入機械・システム | 制御方式 | 役割・処理内容 |
|---|---|---|---|
| 掘削・投入 | 自律運転バックホー | 自律制御 | 崩落土を掘削し自走式土質改良機へ投入 |
| 土質改良 | 自走式土質改良機「リテラ」 | 機械処理 | 掘削土を盛土に適した品質へ改質 |
| 積込み | 遠隔操縦バックホー「サロゲート」 | 遠隔操縦 | 3次元映像を用いた遠隔操作でダンプへ積込 |
| 運搬 | 自動運転アーティキュレートダンプ | 自動運転 | 約1kmの運搬路を自律走行し盛土地点へ放土 |
| 敷き均し | 自動運転ブルドーザー | 自律制御 | 設計データ連動による盛土の敷き均し・整地 |
実証に至る時系列の推移と工事概要
大林組は福島県飯舘村の復興事業などで培ってきた自動化施工技術「ロボティクスコンストラクション」の知見をベースに、能登半島地震の発生直後から現地への遠隔・自動施工技術の投入を段階的に進めてきました。
| 年月日 | 実施事項・プロジェクトの進捗 | 実施主体・公表情報 |
|---|---|---|
| 2022年4月 | 福島県飯舘村長泥地区盛土工事で盛土自動化施工の現場実証を開始 | 大林組 |
| 2024年1月 | 能登半島地震発生直後より国道249号の道路啓開作業に着手 | 大林組、大林道路、宮本組 |
| 2024年9月 | 輪島市内の啓開現場に自動充電ドローンを常設しStarlink経由で運航開始 | 大林組、KDDIスマートドローン |
| 2024年10月 | 国道249号復旧現場(渋田町〜町野町大川間)へ無人重機の遠隔操作を初投入 | 北陸地方整備局、大林組JV |
| 2025年11月 | 東京・千代田区の国交省DXルームから輪島市のバックホウを遠隔操縦実演 | 国土交通省、大林組 |
| 2026年1月 | 「R6 249号輪島地区道路復旧その13工事(大川浜工区)」着工 | 大林組・宮地組JV |
| 2026年7月 | 大川浜工区にて自律・遠隔建機を連携させた盛土自動化の現場見学会を開催 | 北陸地方整備局、大林組JV |
| 2026年8月末 | 大川浜工区の本復旧工事進捗率が14%に到達 | 国土交通省 北陸地方整備局 |
| 2026年9月 | 掘削・積込・運搬・盛土の一連工程における自動化施工の実運用を確認 | 日経クロステック |
対象工事である「R6 249号輪島地区道路復旧その13工事」は、施工延長約1.72kmを対象とし、2027年3月31日までの実工期で進められています。山側の斜面崩落と海側の地盤隆起が同時に発生した過酷な地理的条件下において、現場監理業務を80%削減した自動航行ドローン技術なども併用しながら施工が進められています。
参考記事: 国交省が能越道で4機種を1台に集約、盛土ICT自動化施工を全国初公開
建設業界の各プレイヤーに及ぼす影響
一連の土工プロセスを自律・遠隔建機の群管理で成立させた本事例は、元請けゼネコンの施工体制から技能労働者の作業環境、建機調達市場に至るまで、サプライチェーン全体に実務的な変化をもたらします。
元請けゼネコン:単体技術から「フリート管制ノウハウ」への競争軸移行
元請けゼネコンにとって、土木工事の競争力は単一のICT建機を導入する段階から、異なる制御システムを持つ複数台の重機を統合制御する「フリートマネジメント能力」へとシフトしています。
本現場のように、自律運転・遠隔操縦・有人作業が同一エリア内で交差する場合、通信遅延の防止や安全監視インターロックの構築など、現場全体の通信環境と管制システムのインテグレーションが不可欠となります。大林組が低軌道衛星通信(Starlink)や自社開発のフリートマネジメントシステムを用いて1kmの運搬ルートを安定稼働させている実績は、今後の大規模土工や危険地帯工事の入札において、総合評価方式の技術提案力を左右する要素となります。
職人・技能労働者:過酷環境の乗車作業から遠隔・システム管理業務への移行
重機オペレーターをはじめとする技能労働者は、崩落リスクのある法面直下や炎天下のキャビン内での長時間搭乗作業から解放されます。2026年7月の現場見学会において輪島市の坂口茂市長が熱中症リスクの低減に言及した通り、空調の効いた遠隔操作室からの作業は身体的負荷を大幅に引き下げます。
一方で、求められる技能要件には変化が生じます。従来のレバー操作技術に加え、モニター画面越しに土量や地盤反力を把握する感覚や、自律運転建機の動作停止アラートに対して遠隔から介入・リカバリーを行うシステム監視スキルが求められます。大林組の技術者が国交省DXルームでの実演時に「遠隔操縦の習熟時間は早い人で30分、長くても半日程度」と説明しているように、操作デバイスの高度化によって未経験者の習熟スピードが向上する環境も整いつつあります。
建機メーカー・レンタル企業:パッケージ化された自動化システムの供給体制
建機メーカーおよびレンタル企業は、個別の油圧ショベルやダンプトラックを貸し出す従来型のビジネスモデルから、自動運転ユニット、遠隔操作席、通信アンテナ、群管理ソフトウェアを一体化したパッケージソリューションを提供する体制への移行を迫られます。
特に地方の復旧現場では、通信インフラの構築や自動走行マップの作成、万が一のシステム障害時に対応できるフィールドエンジニアの派遣が不可欠です。建機レンタル大手が後付け型の遠隔操作キットや自動走行アタッチメントのラインアップを拡充し、現場ごとの通信環境設計までを含めて支援する体制を整えられるかどうかが、今後の機材調達における採否を分けることになります。
参考記事: 国土交通省、砂防の遠隔施工で作業効率1.36倍|直轄1割から中小普及へ
ConShiftの視点(独自考察)
大林組が大川浜工区で実証した技術体系は、国土交通省が掲げる「i-Construction 2.0」の施策方針である「施工のオートメーション化」を現場レベルで具現化した事例です。この実運用から読み取れる今後の構造変化と事業者の動向は次の2点に集約されます。
「点」の自動化から「協調制御システム」への規格競争
これまでのICT土工は、マシンコントロール(MC)付きバックホーによる法面整形など、単一重機の作業精度を高める「点」の自動化が主流でした。しかし本工事が示したのは、自律掘削から遠隔積込み、1kmの自動運搬、自動敷き均しに至る複数工程を連結した「土木施工全体の自律協調システム」の実用化です。
今後は異なる建機メーカーの車両が混在する現場において、各重機の位置情報や作業ステータスをどのように相互通信させるかという通信インターフェースや安全プロトコルの標準化が焦点となります。元請け各社は自社開発のクローズドな管制システムに固執するのではなく、下請け企業やレンタル会社が保有する多様な建機を容易に接続できるオープンな管制プラットフォームを採用・構築できるかが問われます。
直轄権限代行工事を契機とした積算・歩掛基準の改定動向
本工事は石川県管理の道路を国が代行して復旧する「直轄権限代行」として進められており、北陸地方整備局能登復興事務所が直接現場の稼働データを取得しています。能越自動車道でのブルドーザ機能付きバックホウの実証や、山形県立谷沢川での砂防遠隔施工実証と同様に、これらの施工実績は国土交通省による自動・遠隔施工の新たな標準歩掛策定に直結します。
現行の土木積算基準は「重機1台につき専任オペレーター1名」を前提とした労務費・機械経費で算出されています。しかし、1名のオペレーターが複数台を監視する遠隔・自律施工が標準化されれば、歩掛体系はシステム損料や遠隔管理費を計上する形態へと再編されます。施工各社は、初期のシステム導入費と削減できる労務費のバランスを精緻に検証し、次期積算基準への改定を見据えたコストモデルの再構築を進める必要があります。
参考記事: 国総研が遠隔施工実験に2000万円、異業種人材の建機操縦参入を促す
まとめ
国道249号の復旧現場で実用化された盛土自動化施工は、複数の自動・遠隔建機を現場管理システムで連動させる施工体制が実用フェーズへ到達したことを示しています。
施工管理関係者および経営層が明日から取り組むべき具体事項は以下の通りです。
- 土工工程におけるボトルネック工程の洗い出し
掘削、積込み、運搬、敷き均しのうち、有人作業による待機時間や重機の離合待ちがどこで発生しているかを再検証し、自律化や遠隔化による協調作業の導入余地を特定する。
- 通信インフラと管制ツールの導入要件確認
Starlink等の衛星ブロードバンドや現場内Wi-Fi環境の整備手順を整理し、自社現場への遠隔・自動建機フリートマネジメントシステムの導入に必要な通信要件を把握する。
- レトロフィット機器の調達ルート開拓
新車購入に依存せず、既存の保有重機やレンタル建機に後付け可能な遠隔操作ユニット・自動運転キットの適合性を機器ベンダーやレンタル会社へ照会する。
出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: 国土交通省 北陸地方整備局-202608.pdf)
出典: 大林組
出典: 大林組・KDDIスマートドローン



